はじめに
社会調査のデータには、しばしば何十、何百もの変数が含まれます。 そのすべてを一覧にして眺めても、情報が多すぎて、構造が見えてきません。
そこで、「全体のばらつきをいちばんよく表す、少数の合成変数」を取り出して、データの全体像を捉えやすくする──。 そのための統計手法が、今回取り上げる主成分分析(principal component analysis, PCA)です。
1. 主成分分析とは何か
主成分分析は、ひとことでいえば、
相関のある多数の変数から、相関のない少数で全体のばらつきを最もよく表す「主成分」と呼ばれる変数を合成する、多変量解析の一手法。
を指します(吉岡のノートより)。
別の言い方をすれば、
たくさんの量的な説明変数を、より少ない指標や合成変数(複数の変数が合体したもの)に要約する手法。
データの次元を削減するために用いられる、というのが主成分分析の基本的な目的です。
2. なぜ「要約」が必要なのか
なぜわざわざ、たくさんの変数を少ない指標に要約するのでしょうか。 理由は、いくつかあります。
ひとつ目は、全体像を見やすくするため。 変数が多すぎると、データの構造が把握しにくい。 少数の主成分に要約すれば、データのパターンを直感的に理解できるようになります。
ふたつ目は、変数同士の重複を取り除くため。 社会調査では、似たことを測っている変数が、複数あることがよくあります。 こうした重複を取り除き、独立した少数の指標にまとめると、分析が効率的になります。
三つ目は、後続の分析の前処理として。 回帰分析、クラスター分析、機械学習などの後続の分析で、変数が多すぎると問題が出る場合があります(多重共線性、過剰適合など)。 主成分分析で次元を削減してから、後続の分析にかけることで、分析の質が安定します。
3. 具体例:身体測定データ
イメージしやすい例として、身体測定データを考えてみます。
ある集団から、
- 身長
- 体重
- 胸囲
- 座高
- 足のサイズ
──という5つの変数を測定したとします。 これらは互いに相関しています(身長が高い人は、ほぼ間違いなく体重も多い)。
主成分分析にかけると、
- 第1主成分:全体の「大きさ」を表す合成変数(身長・体重・胸囲・座高・足のサイズの加重和に近いもの)
- 第2主成分:「縦の長さ vs 横の太さ」のような、別の側面
──といった、少数の主成分が抽出されます。 5次元のデータを、2〜3次元に要約することで、データの構造が見やすくなります。
4. 主成分の解釈
主成分分析の結果として出てくる「主成分」は、数学的にデータから取り出された合成変数です。 その意味づけ(解釈)は、研究者が行います。
たとえば社会調査で、
- Q1:「政治に関心がある」
- Q2:「ニュースをよく見る」
- Q3:「選挙には必ず行く」
- Q4:「環境問題が大事だと思う」
- Q5:「経済成長より幸福度が大事」
──などの質問項目から主成分を取り出すと、
- 第1主成分:政治・社会への関心の強さ
- 第2主成分:経済重視 vs 環境・幸福重視
──のような形で、データの主要な軸が浮かび上がってくることがあります。 これらを解釈して、社会的な意味を与えるのが、研究者の仕事です。
5. 因子分析との違い
主成分分析と因子分析(→ #98)は、よく似ています。 ですが、目的と仮定が違います。
- 主成分分析:データを縮約する。観測変数を加重和に合成して、少ない主成分に圧縮する。観測変数の100%を説明しようとする
- 因子分析:データの背後にある潜在因子を推定する。観測変数を「潜在因子+誤差」で説明する。潜在因子の存在を仮定する
ひとことで言うと、
- 主成分分析:「データを、より少ない次元で表現したい」
- 因子分析:「データの背後に、見えない共通の何かがあるはずだ」
──という、出発点の違いがあります。 どちらが正しいというよりは、目的に応じて使い分けるべきものです。
6. 主成分分析の応用
主成分分析は、いまさまざまな分野で使われています。
- 画像処理:高解像度の画像データを、少ないデータ量で表現する(圧縮)
- 顔認証:顔の特徴を主成分(固有顔/Eigenfaces)として捉える
- マーケティング:消費者の嗜好を、いくつかの主軸で表現する
- 教育評価:複数のテストの結果を、総合力と個別の特性に分解する
- 政策研究:地域の特徴を、いくつかの指標に要約する
機械学習やAIの世界でも、主成分分析は次元削減の基本手法として、いまも広く使われています。
7. 主成分分析の限界
主成分分析にも、いくつかの限界があります。
ひとつ目は、線形の関係しか扱えないこと。 変数同士の関係が曲線的だったり、複雑だったりすると、主成分分析ではうまく要約できません。 そういう場合は、より高度な手法(非線形主成分分析、t-SNE、UMAPなど)が使われます。
ふたつ目は、解釈の難しさ。 数学的に出てきた主成分が、何を意味するかは、研究者の判断にかかっています。 ここを安易にすると、意味のない指標を作ってしまう。
三つ目は、情報の損失。 要約することで、必ず一部の情報は失われます。 何を捨てて、何を残すかの判断が、研究の質を左右します。
8. インタビュー研究と、主成分分析的な発想
TSIR のインタビュー研究では、主成分分析を直接使うことはありません。 ですが、その発想は、質的研究にも生きます。
ひとりの語り手の経験を聴いていくと、たくさんの話題が出てきます。 家族、仕事、健康、地域、趣味、過去、未来──。
これらの語りを整理するとき、
- 「この人の話の主軸は、何だろう」
- 「いくつかのテーマが、ある共通の方向性で語られている」
- 「複雑な話を、もう少しシンプルに表現できないか」
──と考えるのは、主成分分析的な発想です。 質的研究の分析でも、たくさんの語りを少数のテーマや軸に整理することが、しばしば求められます。
結び
主成分分析は、「たくさんの情報を、少しの指標に圧縮する」ための、強力な道具です。
データの次元削減、変数の重複の除去、後続分析の前処理──。 社会調査の世界で、いまも幅広く使われています。
「いっぱいあるけど、結局のところ何が言いたいのか」 「複雑なデータの、本質的な軸はどこにあるのか」
こうした問いに、数学的にアプローチする手法。 それが、主成分分析です。
参考資料
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「主成分分析」
- 多変量解析の入門書一般
- 関連:因子分析(#98)、多変量解析(#58)、重回帰分析(#70)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】