はじめに
「家族構成は?」と聞かれて答える内容と、「同居している人は?」と聞かれて答える内容は、たいてい少し違います。 別居している大学生の娘は、自分の「家族」だけれど、いま一緒に暮らしている「世帯」のメンバーには入らない。 逆に、ホームステイで受け入れている留学生は、「家族」ではないけれど、同じ「世帯」かもしれない。
社会学・統計学の世界では、このふたつを慎重に区別します。 今回取り上げるのは、家族(family)と世帯(household)です。
1. 家族とは何か
家族は、ひとことでいえば、
異性愛規範が支配的な近代において、夫婦・親子など親族関係によって構成される、共同住居に基づいた生活の単位・集団。
を指します(吉岡のノートより)。
ポイントはふたつあります。
ひとつは「親族関係」によって構成されること。 夫婦の関係、親子の関係、きょうだいの関係といった、血縁・姻縁・養子縁組などで結ばれた関係です。
もうひとつは「共同住居に基づいた生活の単位」であること。 ただ親族関係があるだけでなく、生活をともにしている、あるいはともにしてきた集団であること。
家族は、経済的な扶助だけでなく、情緒的なつながりやケアにおいても、現代社会で重要な役割を担っています。
2. 世帯とは何か
これに対して、世帯は、
住所と家計を共通にする人たちからなる共同体。
を指します。
「住居をともにし、生計(家計)をともにする」という、より物理的・経済的な単位です。 親族関係である必要はありません。 シェアハウスで住所と家計を共有していれば、世帯になりうる。 ホームステイで住所と家計を一部共有していれば、世帯の一員になることもある。
3. ふたつの違いが、現れる場面
家族と世帯の違いは、次のような場面で明確になります。
通学のために遠方で一人暮らしをしている大学生は、家族のメンバーですが、世帯のメンバーではない。 彼/彼女は、自分自身の住所・家計を持つひとつの「単独世帯」を形成しています。 ですが、家族の一員であることには変わりありません。
逆に、住み込みで働いている人や、留学生のホストファミリーに迎え入れられた人は、世帯のメンバーではあっても、必ずしも家族のメンバーではありません。
ですから、「ひとり暮らし=家族がいない」ではなく、「単独世帯で暮らしている=家族とは別の住所で暮らしている」だけ、ということになります。
4. 統計調査は「世帯」を単位にする
日本の家計調査、国勢調査などの統計は、世帯を単位にしています。 これは、「住所と家計が共通」というのが、客観的に把握しやすいからです。
「家族」は、生活感覚としては自然な単位ですが、外側から線引きをするのが難しい。 「同居の弟も家族?」「離婚した親も家族?」「親しい従兄弟は家族?」──。 こうした問いに答えは一つではない。
だから、統計上の操作可能性のために、調査では世帯を単位にすることが多いのです。 そして、「家族に関する統計や調査の多くは、世帯を対象としたもの」だという、このずれを意識することが、社会学的なリテラシーになります。
歴史的に見ると、世帯から非親族成員(住み込みの使用人、徒弟、奉公人など)が減少し、親族成員の比重が高まってきました。 近代以降、世帯と家族が重なる範囲が大きくなったのです。 ですが、シェアハウス、ホームステイ、介護同居など、現代でもこのふたつのずれは、いろいろな場面で立ち上がってきます。
5. 産業構造と、家族のかたち
家族のかたちは、産業や価値観の変遷によって変わってきました。
第一次産業(農業)が主流の社会では、祖父母との同居による多世代家族(「さんちゃん農業」)が一般的でした。 高度経済成長を経てホワイトカラーが中心の社会になると、核家族(夫婦と未婚の子)が一般化しました。 晩婚化と少子化のなかで、DINKS(共働き・子なし)や、単独世帯の比率が上がっていきます。 近年では、同性パートナーシップを家族として制度的に認める国も増えています。
「家族」というかたちは、自然に決まっているものではなく、その時代の経済・制度・価値観によって変化していくものです。
6. インタビュー研究と、家族/世帯のずれ
TSIR がインタビューを通して聴く語りのなかにも、家族と世帯のずれは、しばしば顔を出します。
- 「いま一緒に住んでいるのは母だけ。父と妹は別の家に」(世帯と家族の不一致)
- 「血のつながりはないけど、私にとっては家族」
- 「結婚はしていないけど、生活はずっと一緒」
- 「子どもが進学で家を出てから、世帯としては縮まったけど、家族のかたちは変わっていない」
これらの語りを聴くとき、「家族=同居している人」と単純化してしまうと、大切な層を取りこぼします。 家族と世帯の区別を意識すると、語り手が自分の「居場所」をどう構成しているかが、より精密に見えてきます。
結び
家族と世帯は、似ているけれど別の単位です。
家族は、関係性に基づく集団。 世帯は、住所と家計を単位とする集団。
このふたつのずれを意識すると、統計データの読み方も、人の語りの聴き方も、ぐっと丁寧になります。 私たちが日常的に「家族」と呼んでいるものが、どんなかたちで成り立っているかを、一度立ち止まって考えてみる。 ここから、家族社会学の入り口が開きます。
参考資料
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「家族と世帯」
- 国勢調査・家計調査の世帯の定義
- 関連:定位家族と生殖家族(#39)、近代家族論
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】