はじめに
「知能」「学力」「幸福度」「自己肯定感」「ジェンダー意識」──。 社会学・心理学が扱うこれらの概念は、いずれも直接は測れないものです。 体重や身長のように、ものさしを当てれば数字が出てくる、というわけにはいきません。
ですが、たくさんの質問への回答パターンを集めれば、その背後にある「何か」を推定することができます。 そのための代表的な統計手法が、今回取り上げる因子分析(factor analysis)です。
1. 因子分析とは何か
因子分析は、ひとことでいえば、
複数の説明変数に影響を与えている共通因子を抽出する分析手法。
を指します(吉岡のノートより)。
たとえば、学校の10科目の試験結果のうち、現代国語と古文と論文の成績が良い学生がいたとします。 これは偶然でしょうか? それとも、その学生のなかに「文系の力」というような共通因子が働いているからでしょうか?
因子分析は、こうした共通因子を、数学的な手続きで探し出す手法です。
このとき、
- 説明変数(観測変数)は量的変数
- 「目的変数」はない
- データ全体の構造を要約する形で潜在的な因子を設定する
──という考え方を取ります。 回帰分析(→ #70)が「予測する」道具だとすると、因子分析は「構造を発見する」道具です。
2. 「知能」の研究から始まった
因子分析の発祥は、20世紀初頭の心理学者チャールズ・スピアマン(Charles Spearman)が1904年に発表した、知能の研究にあります。
スピアマンの発想はこうでした。
「知能」というものは、目には見えず、直接測ることはできない。 しかし、その「知能」は、具体的な知能テストや試験などの結果として現れる(観測できる)はずだ。
つまり、
- 様々な事象(観測変数)を手がかりにして
- 潜在的に存在する概念(潜在変数)を推定する
──というアプローチです。 この発想は、その後の心理学・教育学・社会学・マーケティングなどに、極めて広く応用されていきます。
3. 観測変数と、潜在変数
因子分析を理解するための重要な対概念が、観測変数(observed variable)と潜在変数(latent variable)です。
- 観測変数:直接観測できる変数(試験の点数、アンケートの回答、行動の頻度など)
- 潜在変数(共通因子):直接観測できないが、観測変数の背後に潜んでいる概念(知能、態度、ジェンダー意識、満足度など)
社会学・心理学が扱う多くの概念は、潜在変数です。 それらは、複数の観測変数(質問項目)を通じて、間接的にしか測れません。
因子分析は、観測変数同士の相関のパターンから、潜在的な共通因子の構造を推定する手法です。
4. 例:消費者意識の研究
たとえば、消費者の意識を測りたいマーケティング調査を考えます。
消費者に対して、
- Q1:洋服を買うとき、価格を重視する
- Q2:洋服を買うとき、ブランドを重視する
- Q3:洋服を買うとき、デザイン性を重視する
- Q4:洋服を買うとき、生地の品質を重視する
- Q5:洋服を買うとき、流行を重視する
──といった、複数の質問項目に回答してもらう。
データを因子分析にかけると、これらの背後に、
- 「価格・実用性」を重視する因子
- 「ブランド・流行」を重視する因子
- 「個性・デザイン」を重視する因子
──といった、いくつかの共通因子が浮かび上がってくることがあります。
このように、たくさんの質問項目を、より少ない数の潜在因子に集約することで、データの構造をすっきり整理できる──。これが因子分析の使い道のひとつです。
5. 因子分析の手順
因子分析の基本的な手順は、おおむね次のようになります。
ひとつ目に、観測変数(質問項目)のあいだの相関関係を計算する。
ふたつ目に、相関関係のパターンから、共通因子の数を決める。 (固有値、スクリープロットなどの統計的指標を参考にする)
三つ目に、それぞれの観測変数が、どの共通因子と関連しているかを示す因子負荷量を計算する。
四つ目に、共通因子の解釈を行う。 どの観測変数がその因子に強く関連しているかを見て、研究者が「これは『◯◯』を測る因子だろう」と意味づけを行う。
特に四つ目の「解釈の段階」が、社会学・心理学にとって決定的です。 数学的に出てきた因子に、社会的・心理的な意味を与えるのは、研究者の理論的な判断です。 ここを間違えると、統計的にきれいでも、意味のない結論を出してしまうことがあります。
6. 主成分分析との違い
因子分析と似た手法に、主成分分析(principal component analysis, PCA)があります。 両者は混同されやすいので、簡単に整理しておきます。
- 主成分分析:たくさんの変数を、より少ない合成変数(主成分)に要約する手法。データの次元削減が目的
- 因子分析:複数の変数の背後にある、潜在因子を推定する手法。潜在変数の発見が目的
数学的な手続きは似ていますが、目的が違います。 主成分分析は「データを縮約する」、因子分析は「目に見えない共通因子を探る」──。 この違いを意識すると、それぞれの使い道が見えてきます。
7. 因子分析の限界
因子分析にも、いくつかの限界があります。
ひとつ目は、結果が一意に決まらないこと。 因子の数や、因子の回転(解釈をしやすくする数学的な操作)の選び方によって、得られる結果は変わります。 だから、因子分析の結果を絶対視するのは危ういのです。
ふたつ目は、理論的な意味づけの難しさ。 数学的に出てきた因子に、社会的・心理的な意味を与えるのは、研究者の判断です。 研究者の前提や思い込みが、解釈に染み込みやすい。
三つ目は、質問項目の設計に依存すること。 最初に集めたデータの質が悪ければ、どれだけ精密な因子分析をかけても、意味のある結果は出ません。 操作化と概念化(→ #31)の段階が、決定的に大事です。
8. インタビュー研究と、因子分析的な発想
TSIR のインタビュー研究は、量的な因子分析は使いません。 ですが、その発想は、質的研究にも生きます。
語り手が、いろいろな話題について語ったとき、
- これらの話の背後に、共通するテーマがあるのではないか
- バラバラに見える経験が、ある潜在的な感覚で結びついているのではないか
──と聴くことができる。 表面に出てきた言葉だけを追うのではなく、その奥にある何かを読み解こうとする。 これは、まさに因子分析の質的版です。
質的研究の分析手法のひとつ「主題分析」(thematic analysis)も、この発想に近いところがあります。
結び
因子分析は、目に見えないものを、データから推定する強力な手法です。
スピアマンが知能を測ろうとしたところから始まったこの手法は、いまや、教育、心理、マーケティング、政治意識、組織研究など、あらゆる分野で使われています。
「観測できるもの」だけが世界のすべてではない──。 その奥にある「見えない構造」を見ようとする因子分析の精神は、量的研究にも質的研究にも、共通して大事なまなざしだと思います。
参考資料
- Charles Spearman, "General Intelligence Objectively Determined and Measured" (1904)
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「因子分析」
- 関連:多変量解析(#58)、主成分分析(#99)、操作化・概念化(#31)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】