はじめに

「福祉」と聞いたとき、まず思い浮かべるものは何でしょうか。 高齢者の介護? 障害者支援? 生活保護? 児童相談所?

私たちが日常的に使う「福祉」は、たいていこれらの「困っている人を助ける仕組み」を指しています。 ですが、社会学・福祉社会学のことばとしての「福祉」は、もう少し幅広い射程を持っています。

1. 福祉とは何か

福祉は、ひとことでいえば、

基本的人権思想を基盤に、特に公的扶助による生活の安定や充足を目指すことや、人々の幸福で安定した生活を公的に達成しようとすること。

を指します(吉岡のノートより)。

英語の "welfare" は、もともと「well = よい状態」+「fare = 暮らし」から来た言葉です。 日本語の「福祉」も、「幸せ」「祝う」を含む言葉。 人がより良く暮らせるようにする、というのが、福祉の語の根っこにあります。

そして、現代社会で「福祉」を語るときには、それを公的に達成しようとする側面が強調されます。 個人や家族の頑張りだけでなく、社会全体・公共的な仕組みとして、人々の幸福を支える──。これが、現代福祉の出発点です。

2. 狭義の福祉と、広義の福祉

社会学・福祉社会学では、福祉という言葉を、しばしばふたつの幅で使い分けます。

狭義の福祉: 困っている人や弱い人を助ける手立て。 具体的には、

──など。 ターゲットを限定して、必要な人々に支援を届ける仕組みです。

広義の福祉: 社会保障や住宅・雇用などの関連制度も含めて、一般の人々の幸福を達成しようとするもの。 たとえば、

──など。 特定の困難層だけでなく、すべての市民の生活の質を支えていく、より広い仕組みです。

3. ふたつの福祉観の違い

狭義と広義の福祉は、それぞれ別の思想と政策の傾向を持ちます。

狭義の福祉観は、選別主義(→ #20)と親和的です。 「困っている人だけに、適切に支援を届ける」という発想。 財源を効率的に使え、本当に必要な人に手厚い支援ができる利点があります。 ただし、「福祉の対象=助けられる人」という線引きが生まれやすく、スティグマ(恥の感覚)が伴いやすい。

広義の福祉観は、普遍主義(→ #20)と親和的です。 「市民全員の生活の質を、公的に支える」という発想。 スティグマが生まれにくく、社会の連帯感を保ちやすい利点があります。 ただし、財源が大きく必要になり、設計が複雑になります。

どちらが「正しい」というよりも、社会がどちらをどれくらいの比重で組み合わせるか、という設計の問題です。

4. 福祉国家とは何か

近代以降の社会は、福祉を公的に整備する福祉国家を作ってきました。

福祉国家のだいたいの起源は、19世紀末のドイツのビスマルク政権が制定した社会保険制度に遡ります。 その後、第二次世界大戦後にイギリスのベヴァリッジ報告(1942)を経て、戦後の西欧諸国は次々と福祉国家を整備していきました。

福祉国家のかたちは、国によって大きく違います。 エスピン=アンデルセン(→ #47)は、自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームの3つに分類しました。

日本の福祉国家は、戦後に急速に整備されました。 国民皆保険(1961年)、国民皆年金(1961年)、介護保険(2000年)など、制度の主要な柱が築かれています。

5. 福祉と権利の関係

福祉は、たんなる「親切」や「慈善」ではありません。 近代以降の福祉は、基本的人権としての性格を持ちます。

日本国憲法第25条は、

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

と定めています。これが「生存権」と呼ばれる権利です。 福祉は、この生存権を実質化するための公的な仕組みとして、位置づけられています。

つまり、福祉サービスを受けることは、「恵んでもらう」のではなく、「権利を行使する」ことです。 この権利性の確保が、福祉国家を支える法的・倫理的な基盤になっています。

6. インタビュー研究と、福祉

TNN がインタビューを通して聴く語りのなかにも、福祉と日常のあいだのさまざまな手応えが現れます。

これらの語りは、福祉の制度設計と、人々の生活の手触りのあいだに、しばしばずれがあることを示しています。 広義の福祉観で「市民の権利」として福祉を捉え直していくことが、こうしたずれを埋めるための、ひとつの方向性です。

結び

福祉は、たんなる「弱い人への支援」ではなく、社会全体で人々の幸福と生活を支える、公共的な営みです。

狭義の福祉と広義の福祉のあいだを行き来しながら、私たちはどんな福祉を未来に作っていけるのか。 これは、政策の問題であると同時に、私たち一人ひとりの生活感覚にもかかわる、開かれ続けている問いです。

参考資料

【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】

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