はじめに

「男女別の支持率」「年代別の投票傾向」「収入別の幸福度」──。 ニュースや調査結果でよく見るこうした表は、社会調査の世界でもっとも基本的な分析方法のひとつによって作られています。

今回取り上げるのは、クロス集計(cross-tabulation)です。

1. クロス集計とは何か

クロス集計は、ひとことでいえば、

二つ以上の変数を組み合わせて、行列形式で個体(ケース)数の分布を示す集計方法。

を指します(吉岡のノートより)。

たとえば「性別」と「投票政党」を組み合わせると、

| | A党 | B党 | C党 | 合計 | | --- | --- | --- | --- | --- | | 男性 | 120 | 80 | 50 | 250 | | 女性 | 90 | 110 | 40 | 240 | | 合計 | 210 | 190 | 90 | 490 |

──というような表ができます。 この表が、クロス集計表です。

行(縦軸)と列(横軸)に、それぞれ別の変数を置いて、その組み合わせごとに何人いるかを示す。 シンプルですが、変数同士の関連を直感的に読み取れる、便利な道具です。

2. なぜパーセント表記が必要か

クロス集計表に、ケース数だけを書いたものでは、変数間の関連は分かりにくい。 合計人数が違うからです。

上の例では、男性が250人、女性が240人と、合計の人数が違います。 「男性のA党支持120人」と「女性のA党支持90人」を、そのまま比べるのは無理がある。 そこで、行または列の合計を100%として、パーセント表記を併記します。

| | A党 | B党 | C党 | 合計 | | --- | --- | --- | --- | --- | | 男性 | 48% | 32% | 20% | 100% | | 女性 | 37.5% | 45.8% | 16.7% | 100% |

こうすると、男性の48%がA党、女性の45.8%がB党を支持している、という関連が一目でわかる。

3. 因果関係を想定するときの作法

クロス集計表でパーセントを取るとき、ひとつ社会学的な作法があります。

理論的に、因果関係が想起されている場合には、独立変数のカテゴリーごとに、従属変数のカテゴリーの百分率を示すのが原則。

噛み砕くと、こうです。

独立変数のカテゴリーごとに(男性100%、女性100%として)、従属変数のパーセントを示す。 これにより、「男性ではこういう傾向、女性ではこういう傾向」と、原因→結果の流れに沿って読むことができます。

逆に、政党のなかでの性別パーセントを取ると、「A党の中では何%が男性か」になって、解釈の意味が変わってしまう。 このパーセントの取り方ひとつで、読み手に伝わるメッセージが大きく変わります。

4. クロス集計の応用と限界

クロス集計は、量的調査の出発点として、ほとんどあらゆる場面で使われます。

──組み合わせは無限にあります。 シンプルでありながら、データから意味を読み解く第一歩としては、ほぼ最強の道具です。

ただし、限界もあります。

ひとつ目は、変数が3つ以上になると、表が複雑になりすぎる。 ふたつ目は、相関の強さや統計的な有意性は、クロス集計表だけでは判断しきれない。

後者のためには、カイ二乗検定などの統計的検定(→ #50)を組み合わせる必要があります。

5. クロス集計と「第三変数」

クロス集計の落とし穴のひとつに、「第三変数の問題」があります。

たとえば、「年代」と「政党支持」のクロス集計で、高齢層が特定の政党を支持する傾向が見えたとします。 ですが、その「傾向」の本当の原因は、年代ではなく、その世代が経験してきた歴史的出来事かもしれない。 あるいは、その世代の収入構造かもしれない。

クロス集計表は、表面的な関連を示してくれますが、「その関連の本当の意味」までは教えてくれません。 そこから先は、研究者が仮説を立てて、追加の分析(多変量解析、コーホート分析など)で確かめていきます。

6. インタビュー研究と、クロス集計の発想

TNN のインタビュー研究では、クロス集計のように数字を集計することはありません。 ですが、ふたつ以上の変数を組み合わせて見るという発想は、質的研究にも生きています。

これらは、たとえ統計的に処理しなくても、語り手の位置を多次元的に捉えるための視座になります。 クロス集計の発想は、質的研究にとっても、語りを構造化して読むためのひとつの補助線です。

結び

クロス集計は、量的調査のもっとも基本的な、しかし極めて強力な道具です。

ニュースや報告書で見かけるクロス集計表を、

──こんな観点から読み解くと、ただの数字の羅列が、社会についての発見に変わっていきます。

参考資料

【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】

お問い合わせCONTACT