はじめに
「最近の若い人は……」「うちらの世代は……」「歳を取って考えが変わった」──。 私たちが日々口にする、世代や年齢にまつわる感想。 これらは、当たっているようで、しばしば混乱しています。
ある現象を「年齢のせい」と見るのか、「時代のせい」と見るのか、「世代のせい」と見るのか。 この三つを精密に切り分けるための社会学・人口学の方法が、今回取り上げるコーホート分析(cohort analysis)です。
1. コーホート分析とは何か
コーホート分析は、ひとことでいえば、
同時に出生した一群の人々(コーホート)について、異なるコーホートとのあいだで、出生率などの人口学的特性・社会移動量・社会意識などの違いを比較検討する分析。
を指します(吉岡のノートより)。
「コーホート」とは、もともとローマ軍の部隊名から来た言葉で、ある時期に一緒に動いた集団を指します。 社会学・人口学では、ふつう同じ年に生まれた人々の集団を指します。 団塊の世代、団塊ジュニア、ロスジェネ(就職氷河期世代)、ゆとり世代、Z世代──こうした括りは、いずれも世代=コーホートの一例です。
2. コーホート分析を構成する3つの効果
コーホート分析の核心は、ある現象を観察したときに、それを次の3つの効果に分けて考える点にあります。
ひとつ目は、年齢効果(加齢効果)。 人が歳を取ることで、自然に変わる部分。 若い頃は反骨的だった人が、歳を取ると保守的になる、というような変化です。
ふたつ目は、時代効果。 ある時期に社会全体に起きた出来事の影響。 バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍──。 こうした出来事は、その時点に生きているすべての人に、年齢にかかわらず影響を及ぼします。
三つ目は、世代効果(コーホート効果)。 同じ時期に生まれ、同じような社会環境で育った人間集団に固有の特徴。 たとえば、90年代に学生だった世代と、2020年代に学生の世代とでは、デジタル機器との関わり方そのものが違う。 これは、加齢では説明できないし、その時代のすべての人に共通でもない、世代固有の効果です。
ある現象を観察したとき、それが3つのうちどれによるものかを切り分けるのが、コーホート分析の中心的な作業です。
3. なぜ切り分けが大事なのか
3つの効果を混同してしまうと、社会の見え方を大きく誤ります。
たとえば、「30代の幸福度が低い」というデータがあったとして、
- それは「30代という年齢」のせいなのか(年齢効果)
- それともその時の「2020年代の経済状況」のせいなのか(時代効果)
- それとも「氷河期世代」固有の問題なのか(コーホート効果)
──これを区別しないと、政策の対象を誤ります。
年齢効果なら、いまの20代もやがて同じ状況になる。 時代効果なら、経済が回復すればすべての世代で改善する。 コーホート効果なら、特定の世代に絞った支援が必要になる。
コーホート分析は、データを縦断的に追いかけて、この区別を慎重につけていく方法です。
4. 世代効果(コーホート効果)の具体例
世代効果を分かりやすく言えば、「世代別の消費動向を分析・調査すること」がコーホート分析の代表的な使われ方です。 マーケティングの世界でもよく使われます。
例として、いまの50代と20代では、「当たり前」の感覚が違います。
- 50代:教科書をランドセルに入れて運び、黒板の文字をノートに書き写すのが当たり前だった
- 20代:タブレットで学習し、宿題をデータファイルで提出するのが当たり前
これは、加齢では説明できません。 何歳になっても、人は自分が学生時代に身につけた「当たり前」を、ある程度引きずって生きていきます。 これを把握しないままマーケティングや政策を打っても、思ったような成果は出ません。
5. インタビュー研究と、コーホート分析
TSIR がインタビューを通して聴く語りのなかにも、3つの効果は混ざって登場します。
- 「歳を取ったら、何が大事か分かるようになった」(年齢効果)
- 「コロナで、生活が一変した」(時代効果)
- 「私の世代は、就職活動がほんとに大変だったので」(コーホート効果)
ライフコース論(→ #26)が依拠する基本的な視座のひとつが、まさにこのコーホート分析的な感覚です。 ひとりの語りを聴きながら、その人の経験のなかに、年齢効果・時代効果・コーホート効果がどう絡んでいるかを丁寧に区別する。 これができると、語りの意味がぐっと立体的になります。
6. コーホート分析の限界
コーホート分析にも限界があります。
3つの効果を完全に分離するのは、数学的にはとても難しい。 たとえば「ある年齢の、ある世代の人」は、自動的に「ある時代の人」でもあるので、3つの効果が独立して観察できないのです。 これをAPC問題(Age-Period-Cohort問題)と呼びます。
ですから、コーホート分析の結果は、常に「どの効果に重きを置いて解釈するか」の選択を含みます。 分析の結論を絶対視せず、解釈の余地を意識することが、社会学的なリテラシーになります。
結び
「最近の若い人は」「うちらの世代は」「歳を取って」──こうした言い回しの背後には、必ず3つの効果が絡み合っています。
コーホート分析の発想を持っていると、「年齢の話」「時代の話」「世代の話」を雑に混ぜずに、丁寧に切り分けることができます。 ニュースや会話で「世代論」に出会ったときに、一拍置いて「これはどの効果の話だろう」と考える癖をつけると、社会の見え方が変わってきます。
参考資料
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「コーホート分析」
- ライフコース論(Glen H. Elder Jr.以降の蓄積)
- 関連:ライフコース(#26)、存在拘束性(#15)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】