はじめに
社会調査には、大きく分けてふたつの方法があると言われます。
- 量的調査(quantitative research):アンケートや統計を使い、社会現象を数値で測る方法
- 質的調査(qualitative research):インタビューや参与観察などを通じて、人々の理由づけや意思決定の過程を深く調べる方法
Tapi在野研究ネットワークが軸にしているインタビュー研究は、明らかに質的調査のほうに属します。 ですが、Tapi在野研究ネットワークは量的調査を排除しているわけではありません。アンケート調査も実施しますし、統計的な背景情報も参照します。
今回は、このふたつの調査方法の関係を整理しておきます。
1. 質的調査と量的調査の基本的な違い
ふたつの調査の違いを、ひとことで整理すると、
網羅的な知識を探ろうとする調査(質的方法)と、測定の方法を幅広く使って社会現象を量化しようとする方法(量的方法)
ということになります(吉岡のノートより)。
もう少しかみ砕くと、
- 質的調査:「なぜ、その人はそう考え、そう選んだのか」を、その人の言葉と論理に即して理解しようとする
- 量的調査:「その現象は、社会のどれくらいの広がりで、どんな分布で起きているのか」を数値で測る
の違い、と言い換えられます。 問いの焦点が「意味」にあるのか「分布」にあるのか、が分かれ目だと思って差し支えありません。
2. 質的調査の種類
質的調査には、いくつもの具体的な方法があります。私のノートからも引いておきます。
- 参与観察調査
- 文献調査
- 聞き取り調査(インタビュー)
- 生活史法(ライフヒストリー法)
- フォーカスグループ
- エスノグラフィック
- 半構造化/構造化されていない調査票
- 対面インタビュー
- 口述史
- 語りの研究
Tapi在野研究ネットワークが主にやっているのは、対面インタビュー+ライフヒストリー法+語りの研究の組み合わせです。アンケートも併用していますが、語りの厚みを軸に据えています。
3. 「質的は客観性が弱い」という誤解
長いあいだ、社会学のなかには、こんな見方がありました。
量的調査こそが「客観性」と「代表性」を担保できる科学的方法であり、質的調査は仮説構成や解釈の補助にすぎない。
たしかに、質的調査はサンプルサイズが小さく、結果の一般化には慎重な扱いが必要です。 ですが、これは質的方法の弱点ではなく、性格の違いです。
社会現象は、そもそも行為の意味を理解し解釈することを通じて成り立っています。 ある人が「子どもを持たない」と決めるとき、その背景には、その人なりの解釈と意味づけがある。 それを汲み取らずに数値だけで現象を扱おうとすれば、肝心のところが落ちてしまいます。
つまり、質的方法は、社会的リアリティを捉えるうえで本質的で不可欠なものだと、私は考えています。 これは私だけの主張ではなく、いま社会学の世界で意義の再評価が広く進んでいる動きでもあります。
4. Tapi在野研究ネットワークにおける質と量の関係
Tapi在野研究ネットワークの研究プロジェクトでは、ふたつの方法を役割分担させています。
- 量的調査(アンケート):あるテーマに対する立場の分布、共通する論点の輪郭をつかむ
- 質的調査(インタビュー):その立場や論点が、ひとりの人生のなかでどのように経験され、選び取られているかを聴く
たとえば「子どもを持つ理由・持たない理由」のテーマで、私たちは約100人規模のアンケート調査をまず行い、そのうえで個別インタビューを重ねています。 量で「広さ」を、質で「深さ」を取りに行く設計です。
このふたつは対立するものではなく、同じ社会現象に異なる角度から光を当てる、補完しあう方法です。
結び
質的調査と量的調査は、長く対立する関係として語られてきました。 ですが、現代の社会学研究では、両者を組み合わせる「混合研究法(mixed methods)」も含めて、より柔軟な向き合い方が進んでいます。
Tapi在野研究ネットワークがインタビューを軸にしながら、アンケートも併用しているのは、その流れに連なる選択です。 社会を理解するために、私たちはまずひとつひとつの語りから始めます。そのうえで、必要なら数値も使う。順序はあくまで、意味から始める、です。
参考資料
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「質的調査・量的調査」
- 岩波小辞典「社会学」関連項目
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】