用語分類:質的データ整備 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
逐語録(verbatim transcript、字起こし・トランスクリプトとも)とは、インタビューや会話の音声記録を、語られた言葉どおりに文字に起こした記録のことです。質的研究におけるデータ分析の出発点となる一次資料であり、要約ではなく「語られた表現そのもの」を残すことに意味があります。

ひとことで言うと

「録音した会話を、言い淀みや言い直しも含めて、できるだけそのまま文字にした記録」のことです。

定義

逐語録(verbatim transcript)は、インタビュー・会話・観察場面の音声・映像記録を、語られたままの言葉として文字化したテキストです。要約や整文を加えた「議事録」的なまとめとは区別され、質的研究のデータ分析の出発点となる一次資料として位置づけられます。

どこまで詳細に文字化するかは、研究目的に応じて選択されます。意味内容の分析が中心の場合は標準的な逐語録、相互行為の分析が中心の場合は会話分析記法(Jefferson記法)に基づく詳細な転記が用いられます。

文脈と歴史

逐語録という発想は、テープレコーダーの普及(1960年代以降)と質的研究の方法的整備が並行することで定着しました。それ以前は、面接者が現場で取ったメモを再構成する方式が一般的でしたが、録音技術の発展により「語られた言葉そのもの」に分析の対象を移す道が拓けました。

会話分析(CA)の領域では、サックス、シェグロフ、ジェファーソンらにより、間(ポーズ)、言い淀み、笑い、重なり、強調などを記号化する転記システムが発展しました。これにより、逐語録は単なる「文字化」ではなく、分析の前段階で行われる解釈作業であることが意識されるようになりました。

主要な論点

1. 文字化のレベル

どの程度詳細に文字化するかは、研究目的・分析手法と密接に関係します。テーマ分析・内容分析が中心ならば意味の通る形での標準的な逐語録で十分ですが、相互行為分析・会話分析を行う場合は、間や音調の上下、重なりまでを記号化した詳細な転記が必要です。

2. 文字化に伴う「失われるもの」

どんな精緻な逐語録も、音声の質・場の空気・身体のしぐさ・沈黙の意味のすべてを写し取ることはできません。文字化は必然的に「選択」と「翻訳」を含む作業であり、研究者はその限界を踏まえた上で利用する必要があります。

3. 倫理と保管

逐語録は個人情報を多く含む文書であり、匿名化・アクセス管理・保管期間などについて研究倫理上の慎重な取り扱いが求められます。共同研究の場合のデータ共有方針、出版時の引用方針も、事前に定めておくべき項目です。

TSIRの研究との関わり

TSIRのインタビュー研究では、語り手の許諾を得たうえで音声を録音し、原則として全文を逐語録化しています。意味解釈の対象を「研究者が要約した内容」ではなく「語り手が実際に発した言葉」に置くことで、分析の透明性を保つためです。「子どもを持つ理由・持たない理由」「発達障害に関するインタビュー(TABU)」など、いずれのプロジェクトでも逐語録は分析の基盤資料となっています。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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