ひとことで言うと
「研究の中身とリスクをきちんと説明したうえで、参加してもらえるかどうか自由に決めてもらう」という研究倫理の原則です。
定義
インフォームド・コンセント(informed consent)とは、研究者が研究参加候補者に対して、(1)研究の目的、(2)実施される手続き、(3)予想される利益とリスク、(4)個人情報の取り扱い、(5)参加の任意性と撤回の権利を十分に説明し、参加候補者が自発的かつ理解に基づいて参加同意を表明する一連のプロセスを指します。
形式は文書(同意書)が標準ですが、状況によっては口頭同意も用いられます。重要なのは「形式的な署名」ではなく、参加者が研究内容を実質的に理解し、自由意思に基づいて判断できる条件を整えるプロセス全体です。
文脈と歴史
インフォームド・コンセントの理念は、第二次世界大戦後のニュルンベルク綱領(1947)に始まり、ヘルシンキ宣言(1964以降)、ベルモント・レポート(1979)と展開してきました。当初は医学研究を念頭に置いていましたが、1970年代以降、社会科学研究にも適用が広がりました。
日本では、医学研究の文脈で「医療法」「個人情報保護法」「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」などが整備され、社会科学研究でも各学会の倫理綱領(日本社会学会、日本教育社会学会など)や大学・研究機関の倫理審査委員会の枠組みのなかで運用されています。
主要な論点
1. 「十分な説明」とは何か
どこまで詳しく説明すれば「十分」なのかは、研究の性質、参加者の背景、文化的文脈によって異なります。専門用語を避けたわかりやすい説明書、図解の活用、口頭での補足説明など、参加者が実質的に理解できる工夫が求められます。
2. 撤回の権利
参加者は研究のどの段階でも理由なく参加を撤回できる権利を持ちます。これを実質的に保障するには、撤回がペナルティを伴わないことを明示し、データの破棄・取り扱いについて事前に方針を定めておく必要があります。
3. 質的研究特有の課題
質的研究では、研究対象が調査の進行とともに変化することが多く、当初の同意がそのまま適用できない場合があります。長期的なフィールドワーク、ライフヒストリー研究では、研究の段階ごとに同意を更新するプロセス・コンセントの考え方が重要になります。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー研究では、すべての参加者に対し、研究目的・録音と逐語録化の実施・匿名化方針・公開範囲・撤回の権利を文書で説明し、書面または記録された口頭で同意を得ています。「発達障害に関するインタビュー(TABU)」のように、当事者の語りを公開する性格の強いプロジェクトでは、公開前の本人確認のステップを丁寧に設計しています。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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