用語分類:質的調査方法 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
フィールドワーク(fieldwork)とは、研究者が文献や統計データに頼らず、研究対象の人々が実際に生活している現場(フィールド)に身を置いて、観察・対話・参加といった直接的経験のなかから資料を集め、その社会・文化を理解しようとする質的研究の方法です。文化人類学に発し、社会学・教育学・地域研究・看護学など幅広い分野で用いられています。

ひとことで言うと

「研究室で考えるのではなく、現場に行って、見て、話して、ともに過ごしながら理解する」という研究のやり方です。

定義

フィールドワーク(fieldwork)とは、研究者が研究対象とする集団・地域・組織のなかに長期間身を置き、参与観察・インタビュー・ドキュメント収集などの方法を組み合わせて、その場の意味世界を内側から理解する調査の総称です。「フィールドに入る」「フィールドから帰る」という言葉に象徴されるように、研究者の身体的存在そのものが調査の道具となる点が特徴です。

単一の技法ではなく、観察・面接・記録・分析が一体となった実践のスタイルとして理解されます。文献調査やアンケート調査と異なり、研究者が事前に立てた仮説に答えを当てはめるのではなく、フィールドから問いそのものが立ち上がってくる探索的・構築的な性格を持ちます。

文脈と歴史

方法としてのフィールドワークは、20世紀初頭の文化人類学に源流を持ちます。マリノフスキーがトロブリアンド諸島で行った長期調査(『西太平洋の遠洋航海者』1922)は、現地語を学び、現地住民と寝起きをともにする「徹底した現地滞在」をフィールドワークの基準として確立しました。

社会学では、シカゴ学派が1920〜30年代の都市研究にフィールドワークを導入し、移民街・スラム・労働者地区・ギャング集団などの研究を蓄積しました。日本でも、宮本常一に代表される民俗学的調査、京都学派・大阪学派の地域社会調査などが、独自の伝統を育ててきました。1990年代以降は、教育・看護・組織・医療・サブカルチャーなど多様な領域に広がっています。

主要な論点

1. 「外側からの観察」と「内側からの理解」

フィールドワークの古典的な二項対立に、客観的観察か、当事者の意味世界の理解かという問題があります。前者は調査者の中立性を重んじ、後者は対象者の視点に立って世界を見ることを重視します。現代のフィールドワーク論は、この二項を対立させずに往還的に位置づける方向に進んでいます。

2. 研究者の存在が現場に与える影響

調査者がフィールドに入ること自体が、その場の関係性に変化を与えます。これを「観察者効果」として排除すべきものとみるか、研究の分析の対象そのものとして記述するかは、立場によって分かれます。リフレクシビティ(再帰性)の議論はここから生まれてきました。

3. フィールドノートと記述の倫理

フィールドで見聞きしたものを、どのように記録し、どこまで公開するか。フィールドノートの厚さ、匿名化の方針、当事者へのフィードバックの仕方は、研究倫理と方法論が交差する論点として、現代の質的研究で重要さを増しています。

TSIRの研究との関わり

TSIRは個別のインタビューを中心とする研究を行っており、典型的な「長期滞在型フィールドワーク」とは異なりますが、語り手の生活世界に身を寄せて聴くという姿勢はフィールドワークの精神を継いでいます。たとえば「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトや「発達障害に関するインタビュー(TABU)」では、語り手の生活の文脈を尊重し、その人の世界の側から言葉を理解しようとしています。

フィールドワークの基本姿勢である「行って、見て、聴いて、考える」は、TSIRのインタビュー研究の倫理的・方法論的な基盤です。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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