ひとことで言うと
インタビューで「この人になら話してもいい」と思えるような、安心と信頼に支えられた関係のことです。
定義
ラポールとは、聞き手と語り手のあいだに形成される相互的な安心と信頼に基づく関係性を指します。臨床心理学やカウンセリングの領域で発展した概念で、質的研究のインタビュー実践にも広く取り入れられています。
ラポールは、単に「仲良くなる」ことではなく、語り手が自分の経験を語ることができ、聞き手がそれを受けとめうるという研究的な対話の前提条件を指します。
文脈と歴史
心理療法のロジャースに代表される来談者中心療法は、ラポールの形成を治療関係の核に据えました。社会学・人類学のフィールドワークでも、長期にわたる対象者との信頼関係の構築が、参与観察や深いインタビューを成立させる条件として重視されてきました。
近年の質的研究方法論では、ラポールを「築くべきもの」として一元的に語ることへの批判もあります。過度のラポールが語り手の自由な発言を妨げる場合や、ラポール形成のプロセス自体が研究上の権力関係を覆い隠す場合があるからです。
主要な論点
1. ラポールの形成と維持
事前の連絡、丁寧な挨拶、調査目的の明確な説明、傾聴の姿勢、語り手のペースへの配慮など、具体的な実践を通じてラポールは少しずつ形成されます。一度のインタビューで完結せず、複数回の接触のなかで深まっていく場合もあります。
2. 倫理的境界との関係
親密になりすぎることが、語り手の判断を曇らせたり、研究者がデータの取り扱いを甘くしたりする危険を生むこともあります。ラポールと倫理的距離のバランスをどうとるかは、調査者自身の継続的な省察を要します。
3. 「ラポールが取れない」という事実
対象者と十分なラポールが築けないという経験そのものが、社会的な距離・権力関係・過去の経験を映す重要なデータでありえます。ラポールを「成功」と「失敗」の二分法で捉えるのではなく、対話に表れる関係の質を分析の対象に含める視点が求められます。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー実践では、対象者へのインタビュー依頼から実施・分析・公開に至るまでの全過程で、ラポールの形成と倫理的配慮の両立を重視しています。事前の調査説明、当日の安心できる場の設定、語り手のペースを尊重した進行、原稿確認の機会の提供などが、具体的な実践です。
特に「発達障害に関するインタビュー」のように、生活上のセンシティブな経験を扱うプロジェクトでは、語り手と聞き手のあいだの信頼関係そのものが研究の質を支える条件となるため、ラポール形成のプロセスを意識的に設計しています。
関連する用語
参考文献・参考資料
- 佐藤郁哉『フィールドワーク──書を持って街へ出よう』(新曜社, 2006)
- 桜井厚『ライフストーリー・インタビュー──質的研究入門』(せりか書房, 2002)
- ウヴェ・フリック『新版 質的研究入門』(春秋社, 2011)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
質的研究法・インタビュー研究について、講演・執筆・取材のご依頼を承っています。