ひとことで言うと
「ただ外から眺めるのではなく、その場に加わって動きながら、起きていることを記録していく」という調査のやり方です。
定義
参与観察(participant observation)とは、研究者が研究対象集団の生活や実践のなかに身を置き、その活動に何らかのかたちで参加しながら同時に観察を行う方法です。「外から見る観察(non-participant observation)」と区別され、参加と観察の同時性が方法の核となります。
どの程度参加するかには幅があり、社会学者ゴールド(1958)の整理では、完全な参加者/観察者としての参加者/参加者としての観察者/完全な観察者という四つの立場が古典的に区分されてきました。研究者は、対象や倫理的状況に応じて、自らの立ち位置を選択・調整します。
文脈と歴史
参与観察は、20世紀初頭の文化人類学のなかで体系化されました。マリノフスキーがトロブリアンド諸島で1年以上の現地滞在を行い、現地語で生活に参加しながら観察を続けたことは、それまでの「報告書ベース」の人類学を一新する転換となりました。
社会学への導入は、シカゴ学派の都市研究を通じて進みました。ホワイト『ストリート・コーナー・ソサエティ』(1943)はイタリア系移民街のギャング集団に研究者自身が加わって観察した古典的研究で、今もフィールドワーク教育の基本書として読み継がれています。日本では、戦後の地域社会学・産業社会学・教育社会学の調査実践のなかで参与観察の技法が定着しました。
主要な論点
1. 参加と観察のバランス
参加が深くなるほど内側からの理解が進む一方で、研究者の役割が薄れ、調査としての記述ができなくなる「ゴーイング・ネイティブ」の問題が指摘されてきました。逆に観察者の立場に偏ると、現場の意味世界に近づけません。「適切な距離」をどう保つかは、参与観察の中心的な論点です。
2. 可視化と記録
観察した出来事をどのレベルの解像度で記述するかは、フィールドノートの質を左右します。客観的な事実、人々の言葉、観察者の解釈・感想を区別して記録する作法は、ギアツの「厚い記述」やエマーソンらのフィールドノート論によって精緻化されてきました。
3. 倫理的問題
観察対象に研究者の立場を明示しない「秘密の観察」は、深い情報を得られる反面、現代の研究倫理の枠組みでは原則として避けるべきとされます。インフォームド・コンセントとの整合、撤退時の関係調整、当事者への結果の還元など、参与観察は倫理的判断と切り離せない方法です。
TSIRの研究との関わり
TSIRはインタビューを中心に据える研究グループですが、語り手のいる場(職場・家庭・支援団体・コミュニティ)に出向く取材的な参与的観察を実施することがあります。「発達障害に関するインタビュー(TABU)」では、当事者のいる場への訪問・対話・観察を組み合わせ、語りの背景となる関係性の網の目に近づくことを心がけています。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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