ひとことで言うと
「赤ちゃんを世話する、お年寄りを介助する、病人に寄り添うような、人の身体と気持ちを支える具体的な労働」のことです。
定義
ケア労働(care labor)は、他者の身体的・情緒的・社会的なニーズに応える、具体的な世話の労働のことです。代表的にはエヴァ・キテイの定義「依存者を世話するための労働」や、上野千鶴子のケア論で詳述されています。
ケア労働には、(1)身体的なケア(食事、入浴、排泄、移動の介助)、(2)情緒的なケア(傾聴、安心の提供)、(3)社会的なケア(外部資源との接続、書類対応、関係調整)など、多面的な要素が含まれます。これらは互いに分かちがたく結びついた労働であり、「家事と育児」「介護と医療」のように切り分けて理解することは難しいことが知られています。
文脈と歴史
ケア労働の概念は、1970〜80年代のフェミニスト経済学・フェミニスト倫理学のなかで体系化されました。家庭内の無償労働を「労働」として可視化する作業(「主婦労働論争」)と、ケアの倫理学(C.ギリガン、N.ノディングス)の発展が、それぞれの方向から「ケア」を主題化しました。
1990年代以降、少子高齢化・女性の社会進出・福祉国家の再編のなかで、ケア労働は家族から社会へと部分的に移行しました。介護保険制度(2000年)、保育所整備、外国人ケア労働者の増加など、日本でもケアの社会化・市場化が進行しています。同時に、ケア労働者の低賃金、外国人ケア労働者の脆弱な労働条件など、新たな問題群が生まれています。
主要な論点
1. 無償ケアと有償ケアの連続性
家庭内の無償ケアと、施設・病院での有償ケアは、性質的には連続した労働です。家族介護を担っていた女性が、外部の介護労働者として働くという移行が広く見られます。両者を切り離さず、連続したケア労働として捉える視点が重要です。
2. ケアの「商品化」をめぐる議論
ケアを市場で取引可能な「商品」とすることは、ケア労働者の権利保障に資する一方で、ケアの質や倫理的次元を損なう可能性も指摘されてきました。ケアと市場の関係は、現代の福祉社会学の中心的論点です。
3. ケアラーの支援
家族介護者・ヤングケアラーへの支援は、ケア労働を「個人や家族の責任」に閉じこめないために重要です。ケアの分有・社会化は、現代社会の福祉政策の鍵となります。
TSIRの研究との関わり
「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトでは、子育てというケア労働への参加・回避が、語り手の人生選択を大きく左右する主題として現れます。「発達障害に関するインタビュー(TABU)」では、家族・支援者が担うケア労働の重さ、その構造的な不可視性、社会的支援との接続が、繰り返し問われる論点です。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
質的研究法・インタビュー研究について、講演・執筆・取材のご依頼を承っています。