ひとことで言うと
「男性は外で働き、女性は家庭でケアする」というかたちで、性別を基準に労働を分け合うしくみのことです。
定義
性別役割分業(gendered division of labor)は、社会のなかで稼得労働とケア労働が、性別を基準として非対称に配分される構造を指します。日本でしばしば語られる「男は仕事、女は家庭」という規範は、この分業の典型的なイデオロギー的表現です。
重要なのは、これが個人の好みの問題ではなく、賃労働市場、家族制度、社会保障、教育、メディアなどに支えられた構造的なしくみであるという点です。男性の稼ぎ手規範、女性のケア規範、税制・社会保障の世帯主義、職業分離(女性が多い職種・男性が多い職種)などが、相互に強化しあって性別役割分業を再生産します。
文脈と歴史
性別役割分業の構造は、19世紀以降の産業化のなかで成立しました。前近代の家族では、男女がともに家族労働に参加する形態が広く見られましたが、産業化により「賃労働の場(公的領域)」と「家庭(私的領域)」が空間的・時間的に分離し、両者が性別と結びついて配分されました。
日本では、戦後の高度経済成長期に「男性稼ぎ主+専業主婦」という性別役割分業が普及しました。1970年代以降、フェミニズム運動と女性の高学歴化・就労拡大により、この構造は批判の対象となりつつ、依然として根強く残っています。M字型就労、家事育児時間のジェンダー・ギャップ、ケア責任を理由とする女性の就業中断などは、現代日本の性別役割分業の現れです。
主要な論点
1. 「無償労働」の不可視化
性別役割分業の中核的問題は、家事・育児・介護といったケア労働が「労働」として可視化されてこなかった点にあります。「主婦の仕事は労働ではない」という前提が、女性の社会的地位を低めてきました。ケア労働論は、この不可視性を問い直す仕事です。
2. 構造としての持続
多くの女性が労働市場に参加する現代でも、家事・育児時間のジェンダー・ギャップは大きく、女性に過重な負担がかかる「二重負担」が広く指摘されています。意識の変化と構造の変化のあいだに、依然として大きなずれがあります。
3. 男性の側からの問い
性別役割分業は女性だけの問題ではありません。男性の稼ぎ手規範もまた、男性に長時間労働や情緒的疎外を強いる構造として作用します。「父親としてのケア参加」をめぐる近年の議論は、性別役割分業を男性の側からも問い直す視点を提示しています。
TSIRの研究との関わり
「子どもを持つ理由・持たない理由」「仕事・育児をしながら創作をする理由」プロジェクトは、いずれも性別役割分業の現代的な姿と深く関わります。子育てとキャリアと創作を両立させる経験、配偶者との家事育児分担、職場の理解などの主題は、性別役割分業の構造と個人の交渉の現場として読み取れます。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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