はじめに
血液型はA・B・O・AB。 順位は1位、2位、3位。 気温は25℃、26℃。 身長は170cm、175cm。
──これらはすべて「数字」や「ラベル」で表されています。 ですが、その性質はずいぶん違います。 血液型のA・B・O・ABを足し算しても意味がない。一方で、身長は足し算も掛け算も意味があります。
統計学・社会調査の世界では、この違いを4種類の尺度として整理してきました。 今回取り上げるのは、名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度です。
1. 4つの尺度の階層
アメリカの心理学者スタンレー・スティーヴンズ(Stanley S. Stevens)が、1946年に整理したこの分類は、いまでも統計学の基本になっています。
「尺度」と聞くと、ものさしの「目盛り」のイメージかもしれませんが、ここでは「変数の種類」のこと。
そして、これら4つの尺度には、明確な上下関係があります。
名義 < 順序 < 間隔 < 比例
上位の尺度は、下位の尺度の統計量を使うことができる、という関係です。 たとえば、比例尺度のデータは、間隔尺度・順序尺度・名義尺度の統計手法をすべて使えますが、その逆はできません。 これを混同すると、無意味な計算をしてしまったり、できる分析をしなかったりします。
2. 名義尺度(nominal scale)
名義尺度は、ひとことでいえば、
他と区別し分類するための、名称のようなもの。
数値や記号は、たんなる「ラベル」であり、それ自身に大小や順序の意味はありません。
例:男女、血液型、郵便番号、住所、本籍地、所属学部、学籍番号、好きな食べ物
「血液型A」と「血液型B」のあいだに、「Aのほうが優れている」という意味はないし、足し引きもできません。 あくまで分類用のラベルです。
使える統計量:各ケースの数、計数(count)、頻度(frequency)、最頻値、連関係数(クロス集計表での関連)
「男性400人、女性350人」のように、頻度を数えたり、最頻値(いちばん多いカテゴリ)を出したりするのが、典型的な使い方です。
3. 順序尺度(ordinal scale)
順序尺度は、
順序や大小には意味があるが、間隔には意味がないもの。
たとえば、1位+2位 ≠ 3位 のように、足し算引き算ができないけれど、上下の順序ははっきりあるもの。
例:1位 / 2位 / 3位、好き / ふつう / 嫌い、統計検定1級 / 2級 / 3級 / 4級、がんのステージ I / II / III / IV、満足度の「非常に満足 / 満足 / どちらでもない / 不満足 / 非常に不満足」
「ステージ I → II → III」と進行が進む、という順序はある。 ですが、「II - I = I - 0」が成り立つわけではない。間隔が等しいとは限らない。
使える統計量:中央値、パーセンタイル、順位相関係数(現代では順位相関係数も使われる)
平均値は、原則として、順序尺度には使えません。 「満足度の平均は3.6」と書かれることはよくありますが、厳密にはやや乱暴な計算です。
4. 間隔尺度(interval scale)
間隔尺度は、
目盛が等間隔になっていて、その間隔に意味があるもの。
ただし、「0」が原点(絶対的なゼロ)ではないため、比率には意味がない。
例:気温(摂氏)、西暦、テストの点数、IQ
たとえば、気温が19℃から1℃上昇すると20℃になる、というのは間隔として意味があります。 ですが、10℃から20℃に上昇したときに「2倍になった」とは言えません。 摂氏0℃は「気温がない」という意味ではなく、たんに水が凍る温度を基準にしているだけだからです。
使える統計量:平均値、標準偏差、順位相関係数、積率相関係数(ピアソン相関)
平均値や標準偏差が使えるようになるのが、間隔尺度から。 ここから、量的分析の道具がぐっと広がります。
5. 比例尺度(ratio scale)
比例尺度は、
0が原点であり、間隔と比率の両方に意味があるもの。
「0」が「ない」を意味する、絶対的な基準点を持つ。 だから、足し算・引き算だけでなく、掛け算・割り算にも意味がある。
例:身長、体重、速度、睡眠時間、値段、給料、幅跳びの記録
たとえば、身長が150cmから30cm伸びると180cmになる──これは間隔として意味がある。 そして、「150cmの1.2倍が180cm」──これも比率として意味がある。
使える統計量:変動係数(ほかに、間隔尺度で使える統計量すべて)
統計的にもっとも柔軟に扱える尺度です。
6. なぜ尺度を区別するのか
「ただ数字を集めて分析すればいい」と思うかもしれません。 ですが、尺度を意識しないと、次のような失敗が起きます。
- 名義尺度の血液型に「平均値」を出してしまう
- 順序尺度の満足度を、足し算して年代別の合計を出してしまう
- 間隔尺度の気温で、「30℃は15℃の2倍」と書いてしまう
- 比例尺度のデータをカテゴリに丸めて、貴重な情報を捨ててしまう
統計手法には、それぞれ前提となる尺度があります。 データの尺度に合わない手法を使うと、結果は出てきても、その意味は怪しくなる。 だから、調査票の設計の段階から、どの変数がどの尺度かを意識しておくことが大切です。
7. インタビュー研究と、尺度の発想
TSIR のインタビュー研究は、量的調査ではないので、尺度の議論は直接には使いません。 ですが、尺度の発想は、質的研究にも生きます。
語り手の言葉に「数字」が登場したとき、
- これは、ラベル的に使われているのか(名義尺度的)
- 順序を示しているのか(順序尺度的)
- 等間隔の量として語られているのか(間隔尺度的)
- それとも、比率として比べられているのか(比例尺度的)
語り手が「年収が3倍になった」と言ったときと、「役職が3つ上がった」と言ったときでは、語られている数字の質がまったく違います。 こうした違いを丁寧に拾うことで、語りの解像度はぐっと上がります。
結び
「数字」と一口に言っても、その性質には4種類あります。
名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度。 この4つの区別を意識するだけで、データの読み方、分析の進め方、語りの聴き方が、ずいぶん精密になっていきます。
調査・分析・対話のすべての場面で、「この数字は、どの尺度の数字か」を一拍置いて考える癖。 これが、社会調査リテラシーのいちばん基礎にある作法のひとつです。
参考資料
- Stanley S. Stevens "On the Theory of Scales of Measurement" (1946)
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度」
- 関連:多変量解析(#58)、操作化・概念化(#31)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】