はじめに

「幸福を測りたい」「不平等を測りたい」「孤独を測りたい」──。 社会調査の現場では、こうした抽象的な問いから出発することがよくあります。

ですが、抽象的なままでは、データを取ることができません。 「幸福度を10段階で評価してください」と聞いた瞬間に、私たちは抽象的な問いを、測れる問いに変換しています。

この変換作業を、社会学のことばでは概念化(conceptualization)と操作化(operationalization)と呼びます。

地味ですが、量的調査の質を左右する、極めて大事な工程です。

1. 概念化と操作化とは何か

このふたつの言葉は、しばしば一緒に語られます。 ひとことで整理すると、

ある研究テーマについて、仮説を検証するための変数を測定できるように定義すること。

ですが、概念化と操作化は、ふたつの異なる段階を指しています。

つまり、概念化は「言葉の意味を決める」段階、操作化は「測り方を決める」段階です。

2. 例:「虐待」をどう測るか

教科書的な例で、考えてみます。

仮に研究テーマが「どのような世帯に児童虐待が多いか」だったとします。 ここでまず必要なのは、「虐待とは何か」を定義することです。

殴る・蹴るなどの身体的暴行は、虐待。 食事を与えない、医療を受けさせないなどのネグレクトは、虐待。 暴言や恫喝などの精神的暴行は、虐待。 性的な行為を強要することは、虐待。

このように、抽象的な「虐待」という概念を、具体的な下位カテゴリに分けて意味を確定していく作業──これが概念化です。

その次に、これらを実際の調査でどう測るかを決めます。 「過去1年間に、子どもを叩いたことがありますか」 「過去1ヵ月間に、子どもに食事を与えなかったことがありますか」 「過去1年間に、子どもに『お前なんか産まなきゃよかった』と言ったことがありますか」 ──のような、具体的で測定可能な質問項目に置き換える作業が、操作化です。

3. なぜ、この二段階が必要なのか

概念化と操作化を丁寧にやらないと、調査結果はあとから疑われやすくなります。

たとえば、「あなたは虐待をしたことがありますか?はい/いいえ」と聞いても、

結果として、データはバラバラになり、何を測ったのかわからなくなります。

概念化と操作化を経ることで、

──こうした、調査の質の柱が立ち上がってきます。

4. 操作化の落とし穴

ただ、操作化は便利な道具である一方、落とし穴もあります。

たとえば、「幸福度を10段階で答えてください」という質問。 これは見た目には測れていますが、

といった問題を抱えています。

操作化は、抽象的な概念をある側面に絞って測ることです。 測れるようにすることで、必ず何かを捨てています。 この「捨てたもの」を意識せずに数字を扱うと、データは独り歩きしてしまう。 量的調査の研究者は、ここを常に自覚しておく必要があります。

5. 質的調査と、概念化の話

操作化は、典型的には量的調査の用語です。 ですが、概念化は、質的調査の現場でも大切です。

Tapi在野研究ネットワークがインタビュー研究を進めるときも、

──こうした概念の定義を、プロジェクトのなかで何度も問い直します。 質的調査では、操作化までは進めなくても、概念化を曖昧にしたままインタビューを始めると、聴くべき問いがブレてしまいます。

つまり、概念化は量的調査と質的調査の両方に共通する基礎工程なのです。

結び

抽象的な問いを、具体的に測れる問いに変える。 そして、その変換のなかで、必ず「捨てたもの」と「拾えたもの」がある、と自覚しておく。

操作化と概念化は、社会調査の地味な工程ですが、ここを丁寧に踏むことが、研究の信頼性と妥当性を支えます。

「数字」を見るときに、その数字の背後にどんな操作化があったかを考える癖をつけると、世のなかの調査・統計の読み方が変わってきます。

参考資料

【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】

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