はじめに

「男性のほうが、女性より製品Aの使用率が高い」──こんな分析結果を見たとき、私たちはつい「男性向けの製品だな」と納得してしまいます。

ですが、もう一歩立ち止まる必要があります。 本当に「男性だから使う」のでしょうか。 それとも、男性のほうがこの製品をよく使う年代に偏っているだけで、年代を揃えて見たら、性差はほとんどないかもしれません。

このように、第三の変数を加えて、二変数の関連を見直す作業を、社会調査の世界ではエラボレーション(elaboration)と呼びます。

1. エラボレーションとは何か

エラボレーションは、ひとことでいえば、

クロス集計における精緻化のこと。2変数間の関連を調べるクロス表に、第3の変数を絡めることにより、分析結果をさらに精密にすること。

を指します(吉岡のノートより)。

クロス集計(→ #48)が2変数の関連を見せてくれるとすれば、エラボレーションは、

「その関連は、第三の変数を入れても残るのか?」

という追加の問いを立てる作業です。

たとえば、ある製品の性別による使用率の違いを調べた後に、性別ごとに年齢という変数を追加して、その使用率について、性別の影響と年齢の影響の双方を調べる──といった分析が、典型的なエラボレーションです。

2. なぜ第三の変数が必要か

社会調査では、変数Aと変数Bのあいだに「関連あり」と見えても、実際には、

──ということが、頻繁にあります。 これを見分けるためのトレーニングが、エラボレーションです。

3. エラボレーションの4つのパターン

エラボレーションの結果は、おおまかに4つのパターンに分類されてきました。

ひとつ目は、再現(replication)。 第三の変数を入れても、2変数の関連は変わらず再現される。 → 第三の変数の影響は小さく、もとの関連はそのまま信頼できる。

ふたつ目は、説明(explanation)。 第三の変数を入れると、2変数の関連が消える。第三の変数が両方を動かしていた、という解釈になる。 → 「年齢が共通の原因で、見かけ上、性別と使用率に関連が出ていた」というケース。

三つ目は、特定化(specification)。 第三の変数のカテゴリごとに、関連の強さや方向が大きく違う。 → 「若い世代では男性のほうが使用率が高いが、高齢世代では逆になる」というケース。

四つ目は、解釈(interpretation)。 第三の変数が、原因と結果のあいだに介在する媒介変数として働いている。 → 「男性は仕事の都合で出張が多く、その結果、製品Aを使う」というように、AとBのあいだに、Cが介在しているケース。

このパターン分けは、ポール・ラザースフェルドらが整理した古典的なフレームワークで、いまでも社会調査の基本になっています。

4. 簡単な例で見てみる

仮に、次のような関連が見えたとします。

「コーヒー消費量が多い人ほど、心筋梗塞になる確率が高い」

これだけを見ると、「コーヒーは身体に悪い」と結論したくなります。

ですが、ここで第三の変数として「喫煙習慣」を入れてみる。

──こういう関係なら、コーヒーと心筋梗塞のあいだの「関連」は、第三の変数(喫煙)が両方を動かしていたために生まれた見かけの関連になります。

実際、コーヒーと健康の関係を調べる研究では、こうした第三変数のコントロールが極めて重要です。 エラボレーションは、こうした「見かけの関連」と「本物の関連」を見分けるための地味だけれど決定的な作業です。

5. 重回帰分析との関係

第三、第四、第五……と変数を増やしていくと、表で扱うのが難しくなります。 そこで、より多くの変数を同時に扱えるのが、重回帰分析などの多変量解析(→ #58)です。

エラボレーションは、いわば「多変量解析の発想を、クロス表のレベルで実践する作業」と言えます。 多変量解析を理解する前に、エラボレーションの考え方を身につけることが、調査リテラシーの基本になります。

6. 学習科学における「エラボレーション」

なお、「エラボレーション」という言葉は、社会調査の用語であると同時に、学習科学の用語としても使われています。

学習科学のエラボレーションは、

学習中の新しい情報を、既存の知識と関連付けていくことで、新たにインプットしている情報に詳細を付け加えていくプロセス。

を指します。 「何を学習しているか」よりも、「なぜ」「どのように」に重きを置く深い学び方です。

社会調査のエラボレーションと、学習科学のエラボレーションは、別の使い方ですが、根っこのところで似ています。 「新しい情報をそのまま受け取らず、既存の知識や別の変数と関連づけて、理解を精緻化する」という姿勢が、両方の語に共通しています。

7. インタビュー研究と、エラボレーションの精神

TNN のインタビュー研究では、量的なエラボレーションは行いません。 ですが、エラボレーション的な発想は、質的研究にもしっかり生きます。

語り手から、ある経験についての話を聴いたとき、

──という、第三・第四の変数を意識しながら聴き続ける。 「単純な二項対立」で語りを解釈してしまわないように、複数の補助線を引き続けることが、質的研究のひとつの作法です。

エラボレーションは、つまり研究者の慎重さの作法でもあります。

結び

エラボレーションは、社会調査における「急がず、見直す」姿勢のひとつの表現です。

ふたつの変数のあいだに関連が見えたとき、すぐに結論を出さない。 別の変数を入れてみて、その関連が本物かどうかを確かめる。

この地味な手続きが、社会についての理解の質を、決定的に変えていきます。 ニュースや報告書の数字を読むときも、「第三の変数は何だろう」と問いを立てる癖をつけてみてください。世界の見え方が、少し違ってきます。

参考資料

【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】

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