はじめに

家族のなかでの「私」と、会社のなかでの「私」は、同じ「私」のはずなのに、ずいぶん違う顔をしています。 口調も、考え方も、見せる感情の幅も。

このふたつの場面の違いを、社会学のことばで早い時期に整理したのが、アメリカの社会学者チャールズ・H・クーリー(Charles H. Cooley)でした。 今回取り上げる第一次集団(primary group)と第二次集団(secondary group)です。

1. 第一次集団とは何か

第一次集団は、ひとことでいえば、

人々の社会における人間関係について、対面が中心であり、親密性が高く、共同的な集団。

を指します(吉岡のノートより)。

具体的には、家族・仲間集団・親密な友人の集団など。 クーリーは、1909年の著作『社会組織論』のなかで、第一次集団を個人の人格形成に重要な役割を果たす集団として位置づけました。

「ひとは、家族や近しい仲間との関わりのなかで、自分というものをつくっていく」──。 このシンプルだけれど重い洞察が、第一次集団論の出発点です。

2. 第二次集団とは何か

第一次集団と対比されるのが、第二次集団です。 直接の定義は、クーリー本人ではなく、後続の社会学者(とくにロバート・E・パーク)によって整理されていきました。

第二次集団は、

を指します。 具体的には、会社、行政組織、学校、業界団体、政党、市場での取引相手などです。

第一次集団が「全人格的な関わり」を重視するのに対して、第二次集団は「役割や機能で人を扱う」関わりが中心です。

3. パークによる拡張 ──「第一次関係」と「第二次関係」

クーリーの第一次集団概念を発展させたのが、シカゴ学派のロバート・E・パークです。 パークは、第一次集団の概念を拡張して、

という用語を使うようになりました。

集団そのものを区切るのではなく、関係性の質で区切るほうが、現代の複雑な社会には合っている、というのがパークの直観でした。

たとえば、同じ会社のなかでも、

集団のなかに、第一次関係と第二次関係が混ざっている、というのが現代の人間関係のリアリティです。

4. 都市化と、第二次関係の増加

第一次集団/第二次集団の議論は、近代化・都市化のプロセスとも深く関わっています。

伝統的な村落では、人々の関係はほぼすべて第一次集団・第一次関係で成り立っていました。 家族、親族、近隣、村の仲間──。 すべてが、対面で、親密で、共同的でした。

ところが、都市化が進むと、人々は急速に第二次関係のなかに巻き込まれていきます。 会社の同僚、駅員、店員、行政の窓口、SNSのフォロワー──。 これらは、必要なときに必要なだけ機能で関わる関係です。

シカゴ学派が都市社会学を発展させた背景には、こうした関係性の質の変化への関心がありました。 ゲマインシャフトとゲゼルシャフト(#16)の議論とも、強く響き合うテーマです。

5. オンラインの時代に、もういちど

第一次/第二次の区別は、20世紀初頭の概念です。 ですが、SNSやオンラインコミュニティの時代に、もう一度問い直す意味があります。

この問いに即答するのは、難しい。 パークの「関係性の質」という視点が、ここでも効いてきます。 場の物理性ではなく、関係の質で見たほうが、現代の人間関係は精密に分析できそうです。

6. インタビュー研究と、第一次/第二次

TSIR がインタビューを通して聴く語りのなかにも、第一次集団と第二次集団の交差は、たびたび顔を出します。

これらの語りは、その人がどこに第一次集団を持っているかを映しています。 人格形成に強く関わってきた集団、いま心の支えになっている集団、逆に重荷になっている集団。 そのマッピングを丁寧にすることが、ライフヒストリーを聴くひとつの軸になります。

結び

家族や親しい友人と、会社や役所や市場での関わりを、私たちは無自覚に行き来しています。 このふたつのモードを区別する第一次/第二次集団の概念は、100年以上前の整理ですが、いまも私たちの暮らしを語る言葉として、ちゃんと機能します。

「私は誰と、どんな質の関係を結んでいるのか」──。 このシンプルな問いから、自分の社会的な位置が見えてきます。

参考資料

【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】

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