はじめに
家族、職場、学校、病院、町内会、政府──。 私たちは、いつも何かの「組織」のなかで生きています。
ところが、「組織」とは具体的に何でしょうか。 そこには建物があり、人がいるけれど、それだけでは組織になりません。 人と人を結びつけ、秩序づけているものがあって初めて、組織が成立します。
このことを社会学のことばで整理したのが、今回取り上げる社会組織(social organization)です。 アメリカの社会学者チャールズ・H・クーリー(Charles H. Cooley)の中心概念のひとつでした。
1. 社会組織とは何か
社会組織は、ひとことでいえば、
集団や社会を秩序づけるための組織。
を指します(吉岡のノートより)。
クーリーは、1929年の著作『社会組織論──拡大する意識の研究』で、この概念を発展させました。 彼の発想で大事なのは、組織を「固まった状態」ではなく、「組織すること」という動的な営みとして捉えた点です。
ふだん「組織」と言うと、何か完成されたピラミッド構造をイメージしがちですが、 クーリーが見ていたのは、人々の関係を通じて常に作り直されている動きとしての社会組織でした。
2. もう少し丁寧に
社会組織を、もう少し具体的に整理しておきましょう。
集団や社会を構成している諸要素ないし諸部分(人、物、情報)が、それぞれ一定の共同の関心ないし目標を追求するために、一定の規則や慣例などに従って、多かれ少なかれ継続性をもって有機的に相互に関係づけられている状態。
ポイントは、いくつかあります。
- 要素:人、物、情報。これらが集まって組織を構成する
- 共通の関心や目標:これがなければ、ばらばらの集まりになる
- 規則や慣例:明文化されたルールも、暗黙の慣例も含む
- 継続性:一回限りではなく、ある程度の長さを持って続いている
- 有機的な関係:機械的な並びではなく、相互に絡み合って一体となっている
私たちが日常的に「組織」と呼んでいるものは、これらの要素の組み合わせでできています。
3. 集団と組織の違い
クーリーの議論で、もうひとつ整理しておきたいのが、集団と組織の違いです。
- 集団:人と人との関係から成り立つもの
- 組織:人が行う役割関係から成り立つもの
両者は同じものではありません。 集団のなかで、人々が役割を担い、その役割が秩序づけられるとき、組織が生まれます。
例えるなら、
- 同じ電車に乗り合わせた人々は「集団」ではあるけれど、組織ではない
- 同じ会社の人々は、「役職」「部署」「責任」という役割関係を持っているので、組織になる
集団は組織によって形成され、秩序づけられている──というのが、クーリーの整理です。
4. 大小、すべての規模に当てはまる
社会組織の概念は、極めて広い範囲に応用できます。
- 職場のインフォーマルな仲間集団(小さな集団)
- 学校、病院、工場(中規模の組織)
- 全体社会、国家(巨大な社会組織)
吉岡のノートでは、こう整理されています。
社会組織という概念は、対人的な2人関係の維持から、複雑な全体社会の維持のためのメカニズムとして用いられる。
ふたりの夫婦も、ひとつの社会組織。 何十万人の従業員を抱える多国籍企業も、社会組織。 そして、何億人もの市民を含む国家も、社会組織。
──このように、規模を問わず適用できる柔軟さが、社会組織概念の強みです。
5. 「自然発生」ではなく「意識的努力」によって作られる
クーリーが特に強調したのが、社会組織の人為性でした。
大きさの大小にかかわらず、集団や社会の存続を可能にする社会組織は、その集団や社会を構成している人々の秩序維持への意識的努力に依存している。 すなわち、社会組織は自然発生的に成立するものではなく、人々の社会秩序維持への意図的努力として形成されるのである。
「うちの会社は昔からこうだから」「これが伝統だから」と言われる組織のあり方も、突き詰めれば、誰かの努力によって維持されています。 社会組織は、何もしなければ崩れていく。 それを保ち続けようとする人々の意識的な営みが、組織を成立させています。
これは、組織を動かそうとする側にとって、勇気のある見方です。 組織は、自然の法則ではなく、人々の努力で作られている。 だから、人々の意識と行動が変われば、組織のかたちも変わりうる。 ここに、社会組織論の希望があります。
6. テクノロジーが、組織のかたちを変える
クーリーの議論は、いまでも応用が利きますが、現代の社会組織は、彼の時代とは大きく違っています。
特に大きな違いは、テクノロジーの役割です。
現代社会の社会組織のあり方は、**テクノロジー・システム(とりわけコンピュータ・ネットワーク)**のあり方に大きく影響を受けている。
メール、Slack、Zoom、クラウド、生成AI──。 これらのテクノロジーが、組織のかたちを根本から変えつつあります。 リモートワーク、フリーランス、グローバルチーム、AIによる意思決定支援──。
これらは、クーリーの時代には想像もできなかった、新しい組織のあり方です。 ですが、「人と人の関係から、役割を介して秩序が生まれる」という社会組織の基本構造は、変わっていません。
7. 第一次集団との関連
クーリーは、社会組織を語るうえで、第一次集団(→ #34)も中心概念に据えていました。
第一次集団(家族、仲間集団、親密な友人の集団)は、社会組織の最小単位であり、個人の人格形成に決定的な役割を果たします。 そして、第一次集団のなかで身につけた関係性のかたちが、より大きな社会組織のなかでも応用されていく──というのが、クーリーの見方でした。
つまり、私たちが大きな組織のなかでどんな関係を作れるかは、家族や親密な関係のなかでどんな関係を作ってきたかと、深くつながっています。
8. インタビュー研究と、社会組織
TSIR がインタビューを通して聴く語りのなかにも、社会組織への手応えは、しばしば登場します。
- 「会社の組織が変わって、自分の役割の意味も変わった」
- 「家族のなかでの自分の立ち位置を、ずっと意識していた」
- 「地域のつながりが薄れて、組織として機能しなくなった」
- 「オンラインのコミュニティが、自分にとっての新しい組織になった」
これらの語りは、社会組織が「そこにあるもの」ではなく、「人々が作り続けているもの」だということを、生身の経験として教えてくれます。 社会組織の補助線を持っていると、こうした語りを、社会のかたちと個人の経験を結びつけて読むことができます。
結び
社会組織は、社会学のもっとも基本的な概念のひとつです。
それは「固まった構造」ではなく、人々の意識的努力によって作られ続ける動的な秩序。 家族から国家まで、すべての集団がこの「組織する」営みのなかにあります。
組織を変えたいと思うなら、人々の関係と、その底にある意識を変えるところから始めるしかない。 社会組織論は、いまもこのシンプルだけれど重い真実を、私たちに思い起こさせてくれます。
参考資料
- チャールズ・H・クーリー『社会組織論』(1929)
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「社会組織」
- 関連:第一次集団・第二次集団(#34)、合法的支配(#69)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】