用語分類:社会理論 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
スティグマ(stigma)とは、ある個人の属性が「望ましくない違い」として社会的に標識づけられ、その人の社会的アイデンティティ全体を傷つけてしまう烙印を指す概念です。社会学者アーヴィング・ゴッフマンが『スティグマの社会学』(1963)で体系化し、差別・偏見・社会的排除を分析する古典的概念として広く参照されています。

ひとことで言うと

「ある属性が原因で『普通の人ではない』とまなざされ、その人の社会的な立場全体に傷がついてしまう」現象のことです。

定義

スティグマ(stigma)とは、ゴッフマン(1963)によれば、「人を信用に値しない者として大幅に値引きする属性」のことです。古代ギリシャで奴隷や犯罪者に焼き付けた身体的しるし(stigma)に語源を持ち、社会学では、ある属性が他者からの「望ましくない差異」として認知されることで、本人の社会的アイデンティティ全体に否定的な影響を及ぼす現象を指します。

ゴッフマンはスティグマを三つに分類しました。(1)身体的なスティグマ(身体的奇形・障害)、(2)性格的なスティグマ(精神疾患・依存症・前科など)、(3)集団的なスティグマ(人種・民族・宗教・国籍など)です。これらに共通するのは、属性そのものよりも、属性に対する社会的なまなざしがスティグマを生むという点です。

文脈と歴史

スティグマ概念は、1950〜60年代のアメリカ社会学のなかで、人種差別、精神病院、障害者、性的マイノリティ、犯罪歴のある人など、社会から排除される諸集団の経験を分析する枠組みとして発展しました。ゴッフマン『スティグマの社会学』(1963)はその古典的著作です。

1980年代以降、HIV/AIDS研究、メンタルヘルス研究、障害学、クィア理論などのなかで、スティグマは中心的な分析概念として再活用されてきました。リンクとフェラン(Link & Phelan, 2001)は、スティグマを「ラベリング・ステレオタイプ・分離・地位の喪失と差別・権力の作用」の多層的なプロセスとして再定式化しています。

主要な論点

1. 「目に見える」スティグマと「隠せる」スティグマ

身体的特徴のように目に見えるスティグマ(discredited)と、精神疾患歴・性的指向・前科などのように隠すことができるスティグマ(discreditable)では、スティグマの管理戦略が異なります。後者は「いつ・誰に・どこまで開示するか」という困難なジレンマを当事者にもたらします。

2. セルフ・スティグマ

社会から否定的にまなざされる経験が繰り返されることで、当事者自身がそのまなざしを内面化し、自己評価を下げてしまう現象を「セルフ・スティグマ」と呼びます。メンタルヘルス・障害領域での重要な論点です。

3. 構造的スティグマ

個人間のまなざしを超えて、制度・法・組織のなかに埋め込まれたスティグマもあります。差別的な雇用慣行、メディア表象、政策的隔離などが、スティグマを構造的に再生産する装置として作用します。

TSIRの研究との関わり

発達障害に関するインタビュー(TABU)」プロジェクトは、発達障害のある当事者・家族・支援者の語りを聴くなかで、「障害」を取り巻くスティグマがどのように経験され、どのように交渉されているかを描いてきました。診断のメリットとデメリット、開示の判断、自己像の組み直しなどは、いずれもスティグマ概念を抜きにしては理解できないテーマです。

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参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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