ひとことで言うと
「私たちの日常のふるまいを、舞台の上の演技のようなものとして見る」社会学の見方のことです。
定義
ドラマツルギー(dramaturgy)とは、社会的相互行為を演劇上演になぞらえて分析するゴッフマンの理論的アプローチです。人々は他者の前で「自己」を提示し、観客の反応を見ながら印象を管理する。この日常的な営みを、舞台・配役・台本・小道具・観客といった演劇用語で記述することで、相互行為の構造を浮き彫りにしました。
ゴッフマンは表舞台(front stage)と裏舞台(back stage)を区別し、人々が他者の前で見せる「役柄としての自己」と、その背後で行われる「役柄を整えるための準備」を理論化しました。レストランのフロアと厨房、教師の教室と職員室、病院の診察室と詰所などは、典型的な対比例です。
文脈と歴史
ゴッフマンが『行為と演技』を発表した1950年代末は、構造機能主義(パーソンズ)が支配的だった時代です。ドラマツルギーは、マクロな社会構造ではなく対面的な相互行為のミクロな秩序に焦点を当てる、当時としては独創的なアプローチでした。シカゴ学派の伝統やシンボリック相互作用論の系譜に連なる仕事として位置づけられます。
ゴッフマンはその後、『出会い』(1961)、『スティグマの社会学』(1963)、『フレーム分析』(1974)と研究を展開し、相互行為秩序(interaction order)という独自の社会学的領域を確立しました。ドラマツルギーはその初期に提示された出発点的なメタファーです。
主要な論点
1. 「演技」は虚偽か
ドラマツルギーは「人は皆、演じている=偽っている」という解釈を招きやすい概念ですが、ゴッフマン自身の論点はそうではありません。状況に応じた自己呈示は、社会的な秩序の維持に不可欠な機能を果たしていると考えます。「演じる」ことは「嘘をつく」ことではなく、社会生活の構成的要素なのです。
2. チームと観客
ゴッフマンは個人だけでなくチーム(team)を上演の単位とみなしました。同じ目的をもつ複数の演者が、ともに観客に対して印象を作り上げる作業を行います。教師たちの職員室での打ち合わせ、家族で来客に対応するときの役割分担などが、その例です。
3. 相互行為秩序の自律性
ドラマツルギーは、対面的な相互行為がマクロな社会構造に還元できない独自のロジックを持つことを示しました。これは現代の会話分析、エスノメソドロジー、感情社会学などへ大きな影響を与えています。
TSIRの研究との関わり
インタビュー研究は、それ自体がきわめてドラマツルギー的な状況です。語り手は研究者という観客の前で自己を呈示し、研究者もまた「聴き手」として一定の役柄を演じます。「仕事・育児をしながら創作をする理由」のように、本人にとって意味の重いテーマでは、表舞台で語られる自己と、裏舞台にとどまる感情のずれをどう聴くかが、研究の質を左右します。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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