ひとことで言うと
脳の働き方の特性によって、生活・学習・人との関わりに困りごとが生じる状態の総称です。自閉スペクトラム症、ADHD、学習症などが代表的なタイプです。
定義
発達障害は、医学的・行政的・教育的にやや定義の幅がある概念です。日本の発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています(同法2条)。
国際的な診断基準(DSM-5、ICD-11)では、神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)として整理されており、自閉スペクトラム症、ADHD、限局性学習症のほか、知的発達症、運動症群、コミュニケーション症群などを含みます。
文脈と歴史
発達障害の概念は、20世紀以降の児童精神医学・発達心理学・特殊教育学の蓄積を通じて整備されてきました。日本では2000年代に発達障害者支援法(2004年成立、2005年施行)が制定されたことで、行政的にも明確な位置づけが与えられました。
近年は、診断や支援の対象となる人が大きく増えており、「発達障害」が社会的に認知されると同時に、概念の拡張・医療化、家族の負担、教育現場の対応、就労支援の不足など、さまざまな実践的・倫理的課題が議論されています。
主要な論点
1. 「障害」と「特性」のあいだ
発達障害は、本人の特性と社会・環境のかみ合わせのなかで「障害」として現れるという、いわゆる社会モデル的な理解が広がっています。同じ特性を持っていても、環境のあり方によって困りごとの大きさは大きく変わります。
2. 診断と社会的レッテル
診断は、適切な支援につながる重要な手続きである一方で、社会的なレッテルとして作用する側面もあります。診断の利点と、それに伴う偏見・自己認識への影響をどう扱うかは、当事者・家族・支援者にとって繰り返し問われる課題です。
3. 家族・学校・地域の支援体制
発達障害をめぐる支援は、医療・教育・福祉が分業されているため、制度のはざまに当事者や家族が落ち込みやすい構造があります。特別支援教育、療育、就労支援、家族支援を、当事者の生活全体のなかで連携させる取り組みが、現場で続いています。
4. ニューロダイバーシティの視点
近年は、発達障害を含む脳機能の多様性をニューロダイバーシティ(neurodiversity)として捉え、それを尊重する社会のあり方を構想する議論も広がっています。「治す対象」としての発達障害と、「生き方の多様性」としての発達障害のあいだで、視点の往還が続いています。
TSIRの研究との関わり
TSIRの「発達障害に関するインタビュー」プロジェクト(TABU-01)は、特別支援教育の現場に長年携わってきたたぶ先生(堂林タブ)と協働し、発達障害をめぐる当事者・家族・支援者の語りを丁寧に聞き取ることを目指すものです。
本プロジェクトでは、発達障害を医学的カテゴリーとしてだけでなく、家族の日常生活、学校の制度、地域の支援、当事者のライフコースのなかに位置づけ直し、社会学的な分析を行うことを意図しています。「障害」「特性」「支援」「包摂」「過剰包摂」といった概念を行き来しながら、現場の経験を社会の議論に接続する作業を続けていきます。
関連する用語
参考文献・参考資料
- 発達障害者支援法(2004年成立, 2005年施行)
- American Psychiatric Association『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院, 2014)
- 本田秀夫『自閉スペクトラム症の理解と支援』(星和書店, 2017)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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