ひとことで言うと
「障害は『その人の心や身体の側』ではなく、『社会のしくみの側』にある」という見方のことです。
定義
障害の社会モデル(social model of disability)は、障害を二層に分けて理解します。(1)機能障害(impairment) = 身体・知覚・知的・精神の機能的な制約、(2)障害(disability) = 機能障害のある人が、社会の側の障壁・差別・無配慮によって被る活動制限・参加制約。
重要なのは、(2)が(1)の必然的な結果ではないという認識です。たとえば、車椅子利用者が建物に入れないのは「歩けないから」ではなく「階段しかないから」です。社会モデルは、障壁を取り除く責任は社会の側にあるという規範的含意を持ちます。
文脈と歴史
障害の社会モデルは、1970年代のイギリスの障害者運動(UPIAS: Union of the Physically Impaired Against Segregation)と、社会学者マイケル・オリバーの仕事(『障害の政治』1990など)のなかで体系化されました。それまで主流だった「医学モデル」(障害=個人の身体・精神の異常として、医療的に治療・矯正する対象)に対する批判として登場しました。
1990年代以降、障害学(disability studies)は社会モデルを基盤として急速に発展し、2006年に国連で採択された障害者権利条約はその国際的な制度化のひとつの到達点です。日本でも2014年に同条約を批准し、障害者差別解消法(2016年施行)、合理的配慮の法的義務化(民間も2024年から)など、社会モデルの理念に基づく制度整備が進んでいます。
主要な論点
1. 医学モデルとの関係
社会モデルは、医学モデルを完全に否定するものではありません。医療・リハビリテーションの意義を認めたうえで、障害をもっぱら個人の問題とみなす視座を批判するという整理が現代では一般的です。両モデルを統合した「ICF(国際生活機能分類)」もこの方向の試みです。
2. 機能障害の経験を扱う
社会モデルは、社会的障壁の指摘に強い一方で、機能障害そのものに伴う痛み・困難・身体的経験を十分に扱えないとの批判もあります。これに対し、フェミニスト障害学(J.モリス)や「障害の批判的実在論」が、機能障害の経験を理論的に取り戻す作業を進めています。
3. 発達障害・精神障害への適用
身体障害を中心に発展してきた社会モデルを、発達障害・精神障害にどう適用するかは現在進行形の論点です。コミュニケーション様式・感覚過敏・認知特性をめぐる「社会の側のあり方」を問い直すニューロダイバーシティ運動は、社会モデルの精神を引き継ぎつつ、独自の展開を見せています。
TSIRの研究との関わり
「発達障害に関するインタビュー(TABU)」プロジェクトは、発達障害を個人の「異常」として扱うのではなく、当事者・家族・支援者の生きる社会の側のあり方とともに描くことを基本方針としています。社会モデルの視座は、TSIRがこの領域で何を聴き、どう書くかを支える理論的基盤です。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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