ひとことで言うと
「親なら〜であるべき」「上司なら〜であるべき」のように、ある立場の人に対して周囲がもつ「こう振る舞うはずだ」という期待のことです。
定義
役割期待は、構造機能主義の社会学(タルコット・パーソンズら)において中心的な概念のひとつとして発展しました。社会は地位(status)の体系として組織され、各地位には役割(role)が伴い、その役割についての期待が社会成員に共有されることで、相互作用が予測可能になる──というのがパーソンズの基本図式です。
役割期待は、外部から押しつけられる規範であると同時に、当事者自身が内面化している指針でもあります。両者のずれや葛藤が、役割葛藤(role conflict)や役割緊張(role strain)として理論化されてきました。
文脈と歴史
役割概念は20世紀中葉のアメリカ社会学で精緻化されました。ジョージ・H・ミードのシンボリック相互作用論、ラルフ・リントンの『人間の研究』、パーソンズの社会システム論などが、役割と地位の関係をめぐる重要な議論を蓄積してきました。
ジェンダー研究や家族社会学では、性別役割期待(gender role expectation)が大きなテーマとなってきました。家事・育児・労働における役割期待の偏りは、現代社会のジェンダー不平等を再生産する装置として批判的に検討されています。
主要な論点
1. 役割期待の正当性と権力性
役割期待は単なる「みんなの予想」ではなく、しばしば社会的規範として強制力を伴います。期待に応えない者への制裁、応答できない者への自責の念──これらは役割期待の権力的側面の表れです。
2. 役割葛藤と役割緊張
ひとりの人物が複数の役割を同時に担うとき、それぞれの役割期待が衝突する役割葛藤が生じます。働く親にとっての仕事と子育ての両立は、役割葛藤の典型例です。同じ役割のなかで矛盾する期待が向けられる役割緊張もまた、現代社会の重要な経験です。
3. 役割期待の変容
「父親」「母親」「会社員」などの役割期待は、社会変動とともに大きく変化してきました。固定的な役割期待からの離脱と、新しい役割の模索が同時に進行する状況のなかで、当事者は複数の役割期待のあいだを行き来することを余儀なくされています。
TSIRの研究との関わり
TSIRの「子どもを持つ理由・持たない理由」インタビューでは、対象者が「親としての役割期待」「子としての役割期待」「夫婦としての役割期待」「働き手としての役割期待」など、複数の役割期待のあいだで自身の選択を位置づけている様子が、繰り返し語りに表れます。
また、「仕事・育児をしながら創作をする理由」では、創作者という役割期待が制度化されにくい立場と、社会的に強い役割期待を伴う「親」「労働者」という立場のあいだの折り合いが、しばしば語りの中心に現れます。役割期待は、TSIRのインタビュー研究を読み解く重要な分析概念のひとつです。
関連する用語
参考文献・参考資料
- タルコット・パーソンズ『社会体系論』(青木書店, 1974)
- ラルフ・リントン『人間の研究』(理想社, 1964)
- 見田宗介他編『社会学事典』(弘文堂, 1988)
- 森岡清美・塩原勉・本間康平編『新社会学辞典』(有斐閣, 1993)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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