ひとことで言うと
「男らしさ/女らしさ」のように、社会のなかで作られ・受け継がれている性についての見方や役割のことです。生まれもった身体的特徴(sex)とは区別して語られます。
定義
ジェンダーは、もともと文法上の「性」を指す英語ですが、1970年代以降、フェミニズムの研究と運動を通じて、社会的・文化的に構築された性を指す分析概念として確立しました。性別役割分業、性別による職業・所得・権力の不平等、男性性/女性性の文化的構成、性の二元論への問い直しなどが、ジェンダー研究の中心的なテーマです。
近年は、ジェンダーを単に「sexの社会的側面」と捉えるのではなく、ジュディス・バトラーらの議論を経て、性の二元論そのものが社会的に構築されているとする視点が広く共有されるようになっています。
文脈と歴史
1970年代から1980年代にかけて、第二波フェミニズムの蓄積を通じてジェンダー概念が社会科学に定着しました。家族社会学では、性別役割分業、家事・育児労働の不均衡、女性の労働参加と機会の格差などが大きなテーマとして展開されてきました。
1990年代以降は、ジェンダーと階級・民族・セクシュアリティの交差性(intersectionality)が重要視され、単一の軸では捉えられない不平等の重なりが問題化されています。さらに、トランスジェンダー、ノンバイナリーといった性自認の多様性をめぐる議論も、ジェンダー研究の重要な領域です。
主要な論点
1. 性別役割分業と家族・労働
「男性は外で稼ぎ、女性は家を守る」という近代家族モデルは、長らく多くの社会で標準とされてきました。これに対するフェミニズムの批判は、家事・育児労働の見えにくさと評価の低さ、女性のキャリア機会の制約、男性の家族・ケアからの疎外など、多面的な問題群を可視化してきました。
2. ジェンダー・ギャップの持続
労働市場における賃金・昇進・職域の不均衡、政治分野での代表性の低さ、家事・育児・介護の不均等な分担は、現代日本でも依然として顕著です。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数において、日本は先進国のなかで低位に位置し続けています。
3. ジェンダーとセクシュアリティ・性自認
ジェンダーは性別役割の問題にとどまらず、性自認(gender identity)、性表現(gender expression)、性的指向(sexual orientation)と複雑に関わります。これらを混同せずに区別しつつ、相互の関係を捉える視点が、現代のジェンダー研究には不可欠です。
TSIRの研究との関わり
TSIRの「子どもを持つ理由・持たない理由」インタビューでは、出産・子育てという選択が、いかに強いジェンダー的な期待と結びついているかが、繰り返し語りに表れます。「女性として」「妻として」「母として」「男性として」「父として」といった役割期待が、選択の背景・前提・葛藤として作用しています。
また、「仕事・育児をしながら創作をする理由」では、創作活動と家庭責任の両立をめぐる性別役割分業の偏りが、しばしば語りの中心に現れます。ジェンダーは、TSIRのインタビュー研究を読み解くための基底的な分析軸のひとつです。
関連する用語
参考文献・参考資料
- ジョーン・W・スコット『ジェンダーと歴史学』(平凡社, 1992)
- ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』(青土社, 1999)
- 上野千鶴子『家父長制と資本制』(岩波書店, 1990)
- 落合恵美子『21世紀家族へ(第4版)』(有斐閣, 2019)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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