ひとことで言うと
ある人が生まれてから亡くなるまでに辿る、進学・就職・結婚・出産・退職などの人生の道筋を、その時代・社会との関係のなかで捉える視点のことです。
定義
ライフコースは、グレン・H・エルダーらによって体系化された分析枠組みで、個人の人生を時代(historical time)・社会的時間(social time)・個人の時間(individual time)の交差として捉えます。同じ年齢でも生きている時代によって経験は大きく異なる、という前提を出発点としています。
ライフサイクル論が「家族・個人の標準的な発達段階」を想定しがちであったのに対して、ライフコース論は多様化・脱標準化する人生を捉えるための柔軟な枠組みとして発展してきました。
文脈と歴史
ライフコース研究は、エルダーの『大恐慌の子どもたち』(1974)を画期として広がりました。1929年の大恐慌を経験した世代の追跡研究を通じて、歴史的出来事が個人のライフコースに与える長期的影響を明らかにし、コホート研究の重要性を示しました。
日本では1980年代以降、家族社会学の中核的な視点として導入され、戦後の日本社会の家族変動・労働変動・教育変動と人生設計の関係を読み解く枠組みとして展開されてきました。落合恵美子、岩上真珠らの研究が代表的です。
主要な論点
1. 標準的ライフコースの動揺
「進学→就職→結婚→出産→子育て→退職」といった戦後型の標準的ライフコースは、晩婚化・非婚化・出生率の低下・雇用の流動化などを通じて、現在大きく揺らいでいます。脱標準化と個人化は現代ライフコース研究の中心テーマです。
2. コホートと歴史的経験
同じライフイベント(たとえば「大学卒業」)でも、それを経験した時代の経済状況・労働市場・社会規範によって意味が大きく異なります。コホート効果を踏まえずに人生を語ることはできない、というのがライフコース研究の基本的な姿勢です。
3. リンクト・ライブズ
個人のライフコースは、家族・友人・職場の同僚など、他者のライフコースと複雑に絡み合っています。エルダーが「リンクト・ライブズ(linked lives)」と呼んだこの相互依存性は、ライフコースを個人レベルで完結させて見ることの限界を示しています。
TSIRの研究との関わり
TSIRの「子どもを持つ理由・持たない理由」インタビューでは、出産・子育てという選択を、対象者のライフコース全体のなかに位置づけて聞き取る設計を採っています。学校教育、就業、結婚、健康、住まいなど、その人がそれまで歩んできた人生の連なりのなかで、どのような選択がなされたかを描き出すことを重視しています。
また、ライフコース研究の枠組みは、世代差(コホート差)の解釈にも有用です。1980年代生まれと1990年代生まれでは、同じ「30代後半」でも経験している社会的文脈が異なる──こうした視点が、TSIRの分析の基底にあります。
関連する用語
参考文献・参考資料
- G.H.エルダー『大恐慌の子どもたち』(明石書店, 1986)
- 落合恵美子『21世紀家族へ(第4版)』(有斐閣, 2019)
- 岩上真珠『ライフコースとジェンダーで読む家族(第3版)』(有斐閣, 2013)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
質的研究法・インタビュー研究について、講演・執筆・取材のご依頼を承っています。