用語分類:社会理論 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
リスク社会(risk society)とは、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックが『危険社会』(1986)で提示した概念で、近代化の進展がそれ自体として新たなリスクを生み出し、その分配と管理が社会の中心的関心になる現代社会のあり方を指します。原発事故・環境問題・金融危機・パンデミックなど、現代社会の主題を捉える鍵概念として広く参照されています。

ひとことで言うと

「便利さや豊かさを生み出す近代化そのものが、想定を超えた新しい危険も同時に作り出してしまう社会」のことです。

定義

リスク社会(Risikogesellschaft, risk society)は、ベックによれば、古典的近代の「富の分配」の社会から、再帰的近代の「リスクの分配」の社会へと重心を移した現代社会のあり方を指します。リスクはもはや外部の自然から訪れる災厄ではなく、近代社会の科学・技術・産業活動が自ら作り出した結果として生じるものとなります。

ベックは、リスク社会のリスクには三つの特徴があると指摘しました。(1)境界を越える(国境・階級・世代を越えて影響する)、(2)不可視・不確実(科学的な計算や認識に依存する)、(3)自己生成的(産業社会自身が原因である)。チェルノブイリ原発事故(1986)は、この概念の象徴的事例として参照されました。

文脈と歴史

『危険社会』は1986年、チェルノブイリ事故と同じ年に出版され、ヨーロッパで大きな反響を呼びました。同時期にギデンズ、ラッシュらと共著で『再帰的近代化』(1994)を刊行し、「再帰的近代化」という現代社会論の枠組みを確立しました。

リスク社会論は、その後、グローバル化、テロリズム、気候変動、感染症、原発事故、AI・遺伝子技術、金融危機などを論じる際の基本的参照枠となっています。日本では、東日本大震災と福島第一原発事故(2011)以降、再びベックの議論が広く読み直されました。

主要な論点

1. リスクの「民主化」

伝統的な富の分配は階級格差を生みますが、リスクは階級・国境を越えて影響を及ぼす場合があります(放射能、気候変動、感染症など)。これをベックは「リスクの民主化」と呼びました。一方で、実際にはリスクの影響は社会的弱者に集中する傾向があり、リスクと格差の関係は重要な論点です。

2. 再帰的近代化

リスク社会は、近代化を否定するのではなく、近代化が自分自身を反省し作り直す段階として捉えられます。これを「再帰的近代化」と呼びます。個人化もまた、再帰的近代化の重要な側面です。

3. リスクと専門知識

リスクは多くの場合、科学的な計算や評価を経て初めて見えるようになります。そこでは専門家の役割が重要になる一方、専門家のあいだで判断が分かれる「専門知の不確実性」も同時に問題化します。

TSIRの研究との関わり

現代の家族形成・出産・育児・キャリア選択は、いずれも不確実性のなかでの判断を含んでいます。「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトで聴き取るような、未来予測の難しさのなかでの選択は、リスク社会論の枠組みのなかで読み解くことができます。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

質的研究法・インタビュー研究について、講演・執筆・取材のご依頼を承っています。

お問い合わせCONTACT