ひとことで言うと
「便利さや豊かさを生み出す近代化そのものが、想定を超えた新しい危険も同時に作り出してしまう社会」のことです。
定義
リスク社会(Risikogesellschaft, risk society)は、ベックによれば、古典的近代の「富の分配」の社会から、再帰的近代の「リスクの分配」の社会へと重心を移した現代社会のあり方を指します。リスクはもはや外部の自然から訪れる災厄ではなく、近代社会の科学・技術・産業活動が自ら作り出した結果として生じるものとなります。
ベックは、リスク社会のリスクには三つの特徴があると指摘しました。(1)境界を越える(国境・階級・世代を越えて影響する)、(2)不可視・不確実(科学的な計算や認識に依存する)、(3)自己生成的(産業社会自身が原因である)。チェルノブイリ原発事故(1986)は、この概念の象徴的事例として参照されました。
文脈と歴史
『危険社会』は1986年、チェルノブイリ事故と同じ年に出版され、ヨーロッパで大きな反響を呼びました。同時期にギデンズ、ラッシュらと共著で『再帰的近代化』(1994)を刊行し、「再帰的近代化」という現代社会論の枠組みを確立しました。
リスク社会論は、その後、グローバル化、テロリズム、気候変動、感染症、原発事故、AI・遺伝子技術、金融危機などを論じる際の基本的参照枠となっています。日本では、東日本大震災と福島第一原発事故(2011)以降、再びベックの議論が広く読み直されました。
主要な論点
1. リスクの「民主化」
伝統的な富の分配は階級格差を生みますが、リスクは階級・国境を越えて影響を及ぼす場合があります(放射能、気候変動、感染症など)。これをベックは「リスクの民主化」と呼びました。一方で、実際にはリスクの影響は社会的弱者に集中する傾向があり、リスクと格差の関係は重要な論点です。
2. 再帰的近代化
リスク社会は、近代化を否定するのではなく、近代化が自分自身を反省し作り直す段階として捉えられます。これを「再帰的近代化」と呼びます。個人化もまた、再帰的近代化の重要な側面です。
3. リスクと専門知識
リスクは多くの場合、科学的な計算や評価を経て初めて見えるようになります。そこでは専門家の役割が重要になる一方、専門家のあいだで判断が分かれる「専門知の不確実性」も同時に問題化します。
TSIRの研究との関わり
現代の家族形成・出産・育児・キャリア選択は、いずれも不確実性のなかでの判断を含んでいます。「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトで聴き取るような、未来予測の難しさのなかでの選択は、リスク社会論の枠組みのなかで読み解くことができます。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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