用語分類:質的調査方法 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-08
対象者による語りに、他者の語りや他の資料を加え、研究者の問題関心に沿って再構築したうえで分析する質的研究の手法です。社会学的研究の多くが社会構造を優位に置きがちななかで、ライフ・ヒストリー法は主体的行為者である個人の視点を重視する点に特徴があり、数量化やパターン化と適合しづらいテーマを扱う際に強みを発揮します。

ひとことで言うと

ある人がインタビュアーに対して語った人生の物語を、他の資料(手紙、日記、関係者の語り、公的記録など)とつき合わせながら、研究者が一定の関心のもとに編み直していく方法です。「個人の人生を、研究という営みの中で読み直す手続き」と言ってもよいかもしれません。

定義

対象者による語りに、他者の語りや他の資料を加え、研究者の問題関心に沿って再構築した上で分析する方法。個人の主観的な人生記述を、社会的な文脈との関係で読み解いていく研究アプローチを指します。

類縁の概念として「ライフ・ストーリー(life story)」「生活史」「個人史」がありますが、ライフ・ヒストリー法は語りに加えて他の資料を組み合わせる点、そして研究者による再構築のプロセスを内在させる点で、純粋な語りの記述から一歩踏み込んだ研究方法として位置づけられます。

文脈と歴史

起源は20世紀初頭のシカゴ学派にあります。トーマス & ズナニエツキの『ヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』(1918–1920)が嚆矢とされ、移民の生活誌を当事者の手紙や記録から再構成する手法として展開しました。以後、社会調査における質的接近の柱のひとつとして定着し、戦後の日本社会学にも導入されてきました。

1980年代以降は、ナラティブ・アプローチの隆盛とともに、ライフ・ヒストリー研究の方法的反省も深まりました。語りを「事実の伝達」とみなすか、それとも「語る/聞くという相互行為そのもの」とみなすか。語りを再構成する研究者の権力性をどう扱うか。こうした論点が、現在のライフ・ヒストリー法の論じ方を形作っています。

主要な論点

1. 個人の視点を、社会構造の解明に接続できるか

社会学が長らく扱ってきた「社会構造」を、ひとりの語りから読み解こうとするとき、その個人の経験はどこまで一般化できるのか。これがライフ・ヒストリー法の最も根本的な論点です。語り手の生活史は唯一無二のものでありながら、その人物が生きた時代・地域・社会階層を映すでもある、という両義性のなかで、研究者は記述と分析の往復を行います。

2. 量的研究との非対称性

ライフ・ヒストリー法は、統計的方法で扱う「対象の代表性」とは異なる原理に立っています。一人の人生を深く理解することで、その背後にある関係性の網の目を浮き上がらせる──事例研究法と同じく、少数の徹底した記述を通じて、量的調査では捉えきれない複雑な相互関係に迫ります。両者は競合するというより、相補的な関係にあります。

3. 語り手と聞き手の関係性

ライフ・ヒストリーは、聞き手との出会いのなかで形を持ちます。同じ人物が別のインタビュアーに語れば、別の物語が立ち上がるかもしれません。語りは「もともと存在した過去」をそのまま伝えるのではなく、聞き手との相互行為のなかで構成されていく──この前提を踏まえたうえで、研究者は記録と分析にあたります。

4. 倫理と公開のあり方

語り手の人生に深く立ち入るアプローチであるからこそ、匿名性、本人確認、公開範囲、撤回の権利といった倫理的配慮が研究の質を左右します。ライフ・ヒストリー法は、研究方法であると同時に、関係性の倫理でもあるといえます。

TSIRの研究との関わり

TSIRが進めているインタビュー研究プロジェクト「子どもを持つ理由・持たない理由」「仕事・育児をしながら創作をする理由」は、いずれもライフ・ヒストリー法の枠組みを部分的に取り入れています。

たとえば「子どもを持つ理由・持たない理由」インタビューでは、出産・子育てという特定の選択についてだけ聞くのではなく、その人がそれまで歩んできた生活史の文脈──家族との関係、仕事、住まい、健康、価値観の変化など──のなかに、その選択を位置づけ直す対話を試みています。語り手とインタビュアーが共同で人生を編み直す過程そのものが、データであり、分析対象です。

一方で、本プロジェクトはアンケート調査(98件)も併用しており、純粋なライフ・ヒストリー法のみで設計されたものではありません。少数の人生を深く聞く方法多数の声を浅く広く集める方法を組み合わせ、「子どもを持つかどうか」という問いの社会的な広がりと個別の手触りの両面に迫る、混合的なアプローチをとっています。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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