ひとことで言うと
「育ちと環境のなかで身についてしまった、ものの感じ方・選び方・動き方の癖の体系」のことです。
定義
ハビトゥス(habitus)は、ブルデューにおいて「持続的で転位可能な性向のシステム」として定義されます。人がある社会的条件のなかで生きるなかで身につけ、構造化されたかたちで知覚・判断・実践を生み出していく身体化された傾向の総体です。
ハビトゥスは、(1)構造化された(社会条件によって形成される)ものであり、同時に(2)構造化する(実践を生み出す)原理として作用します。ブルデューは、ハビトゥスを個人の主観性と社会の客観性をつなぐ媒介項として位置づけ、「決定論」と「自由意志論」のいずれにも陥らない実践理論を構築しようとしました。
文脈と歴史
ハビトゥスの概念は、アリストテレスの hexis、トマス・アクィナスの habitus といった伝統的な哲学概念に源流を持ち、ブルデュー以前にもモースの「身体技法」、エリアスの文明化論などのなかで類似の発想が見られました。ブルデューはこれらを社会理論として体系化し、『実践の理論』(1972)、『ディスタンクシオン』(1979)などで定式化しました。
『ディスタンクシオン』は、フランス社会の食習慣、音楽の趣味、スポーツ、家具の好みを大規模に調査し、それらが出身階層・教育水準と密接に結びついていることを示しました。「趣味は階級的判断である」というブルデューの主張は、ハビトゥス論の経験的な裏付けです。
主要な論点
1. 再生産と変容
ハビトゥスは社会階層の再生産メカニズムを説明する力を持ちます。一方で、まったく変化しないわけではなく、社会移動・教育・移住・パートナー関係などを通じて変容しうる性向としても理解されます。両者のバランスは、研究上の重要な論点です。
2. 文化資本との関係
ハビトゥスは、文化資本と密接に結びついています。文化資本は財・能力・資格として外在化されたものですが、ハビトゥスはその文化資本を身体に内在化させた性向として理解できます。
3. 質的研究での活用
ハビトゥス概念は、語り手の選択や葛藤を個人の心理に閉じずに、その人が置かれた社会的位置と歴史のなかで読み解く手がかりを与えます。質的研究にとって、社会と個人をつなぐ重要な分析視角です。
TSIRの研究との関わり
「子どもを持つ理由・持たない理由」「仕事・育児をしながら創作をする理由」プロジェクトのいずれにおいても、語り手の判断は単なる個人の選択ではなく、その人がそれまでの人生で身につけてきた性向のシステムのなかで生じています。ハビトゥスは、TSIRが「個別の語りから社会を読む」際の重要な分析的視角の一つです。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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