ひとことで言うと
教養・趣味・話し方・学歴のように、お金とは別の形で身についている「文化的な力」のことです。家庭や教育を通じて世代間に受け継がれます。
定義
ピエール・ブルデューは、文化資本を3つの形態に分類しました。(1) 身体化された文化資本(embodied):言語、教養、振る舞い、嗜好などの内面化された性向、(2) 客体化された文化資本(objectified):書物、絵画、楽器など物質化された文化財、(3) 制度化された文化資本(institutionalized):学歴、資格、称号などの制度的に認証された形態。
文化資本は、家庭環境を通じて世代間に継承され、学校教育を通じて制度化される過程で、社会的地位の再生産に決定的な役割を果たします。階級・階層研究、教育社会学、文化社会学の中心概念のひとつとして広く用いられています。
文脈と歴史
ブルデューは『再生産』(1970, J=C.パスロンと共著)、『ディスタンクシオン』(1979)などにおいて、文化資本の理論を体系的に展開しました。当時のフランス社会の教育・文化生活の精密な実証分析を通じて、文化的差異が階級的差異と結びついていることを示しました。
日本では1980年代以降に紹介され、教育社会学・文化社会学・階層研究を中心に広く受容されました。学歴の階層的偏り、文化的趣味の階層的差異、家庭背景による教育機会の不平等など、現代日本の社会調査研究において重要な分析枠組みを提供しています。
主要な論点
1. 教育を通じた再生産
ブルデューが特に強調したのは、学校教育が中立的な能力評価の場ではなく、家庭で育まれた文化資本の差を能力差として承認・正当化する装置として機能している、という洞察です。これにより、社会的不平等は世代を超えて見えにくく再生産されていきます。
2. ハビトゥスとの関連
文化資本は、ブルデューのもう一つの中心概念ハビトゥス(habitus)と切り離せません。ハビトゥスは、長年の経験を通じて身につけられた知覚・思考・行動の体系で、文化資本を身体化している基盤です。文化資本の理論は、ハビトゥスと場(field)の理論と組み合わさることで力を発揮します。
3. 現代社会への適用
デジタル時代の文化資本、グローバル化のなかでの文化資本、ジェンダー化された文化資本など、現代社会の変化に応じて文化資本の概念も拡張・再検討が続いています。SNSや動画文化のなかで、新しい形の文化資本がどのように形成されているかも重要な研究テーマです。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー研究では、対象者の家庭環境・学歴・趣味・関心の歴史といった、文化資本に関わる側面を丁寧に聞き取ることを重視しています。これらは、出産・子育て・創作・キャリア選択といった「現在の選択」を支える背景として、しばしば決定的な役割を果たしているからです。
「仕事・育児をしながら創作をする理由」プロジェクトでは、創作活動への接近そのものが文化資本の蓄積と深く関わる現象です。創作という活動が、社会的にどう位置づけられているか、そこに参加できる条件は何か、という文化的アクセスの不均衡を背景として読み解いていく必要があります。
関連する用語
参考文献・参考資料
- ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン I・II』(藤原書店, 1990)
- ピエール・ブルデュー & J=C.パスロン『再生産──教育・社会・文化』(藤原書店, 1991)
- 宮島喬『文化的再生産の社会学』(藤原書店, 1994)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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