ひとことで言うと
あらかじめ理論的枠組みを置かず、集めたデータから繰り返し概念を取り出し、比較しながら、現象を説明する理論を立ち上げていく分析方法です。
定義
グラウンデッド・セオリー・アプローチは、質的データ(インタビュー記録、観察記録、文書など)を、オープン・コーディング → 軸足コーディング → 選択的コーディングといった段階を経て概念化し、概念間の関係を整理することで、現象を説明する理論を生成する方法です。
「理論はデータに根ざして(grounded)生成される」という姿勢が方法名の由来です。データから理論への移行は、研究者の解釈と継続的比較(constant comparative method)を通じて進められます。
文脈と歴史
GTAは、グレイザーとストラウスが共著『The Discovery of Grounded Theory』(1967)で提唱しました。当初は、当時主流だった大理論(grand theory)の演繹的検証に対して、現場のデータから新たな理論を立ち上げる対案として提出されました。
1990年代以降、グレイザー版(古典的GTA)、ストラウス&コービン版(手続き重視)、シャーマズ版(構築主義的GTA)など複数の系譜に分岐しました。日本では、木下康仁が独自に修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を提案し、看護学・社会福祉学を中心に広く用いられています。
主要な論点
1. 客観主義か構築主義か
古典的GTAは、データから「発見」される理論という客観主義的な前提を持ちますが、シャーマズの構築主義的GTAは、研究者と参加者の共同構築として理論生成を捉え直しました。GTAをどの認識論的立場で運用するかは、結果の意味づけに深く関わります。
2. コーディングの体系化と硬直化のあいだ
ストラウス&コービン版のような手続き重視のGTAは、再現性と教えやすさに優れる一方で、機械的なコーディングに陥りデータの厚みを失う危険も指摘されています。手続きと感度のバランスが、運用上の論点となります。
3. 修正版GTA(M-GTA)の特徴
木下による修正版GTAは、分析ワークシートを用いた明示的な分析手順を提供しつつ、研究者の解釈を積極的に位置づけた点が特徴です。実務家・初学者にも取り組みやすく、日本の看護・福祉領域で広く採用されています。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー研究は、純粋なGTAではありませんが、データ分析の段階では継続的比較・コーディングといったGTA的な手続きを部分的に取り入れています。「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトの分析過程では、対象者の語りを概念化し、概念間の関係を整理しながら、出産・子育てという選択をめぐる意味の構造を浮かび上がらせていく作業を行っています。
また、修正版GTA(M-GTA)の手順を参考にしつつ、研究者の解釈過程を可視化するワークシート的な記録を残すことで、分析の透明性を確保することにも取り組んでいます。
関連する用語
参考文献・参考資料
- B.G.グレイザー & A.L.ストラウス『データ対話型理論の発見』(新曜社, 1996)
- A.ストラウス & J.コービン『質的研究の基礎(第2版)』(医学書院, 2004)
- K.シャーマズ『グラウンデッド・セオリーの構築』(ナカニシヤ出版, 2008)
- 木下康仁『修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の実践』(弘文堂, 2007)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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