用語分類:社会理論 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
自殺の3類型とは、エミール・デュルケムが『自殺論』(1897)で提示した、社会的条件に応じて生じる自殺の類型です。自己本位的(egoistic)・集団本位的(altruistic)・アノミー的(anomic)の3類型を中心とし、後に宿命的(fatalistic)を補助的に加えた4類型として整理されます。社会的事実としての自殺を分析する古典的な枠組みです。

ひとことで言うと

自殺は個人の心理だけでは説明できず、その人が置かれた社会との関係(個人と社会のつながりの強さ・規範のあり方)によって、性質が異なる──というのがデュルケムの中心的な主張です。

定義

デュルケムは、社会的統合(個人と社会の結びつきの強さ)と社会的規制(社会規範による個人の行動の枠づけ)という2つの軸を用いて、自殺を以下の類型に整理しました。

(1) 自己本位的自殺(egoistic):社会的統合が弱く、個人が孤立している状況で起こる。プロテスタント、独身、子どものいない者の自殺率の高さに見られる。(2) 集団本位的自殺(altruistic):社会的統合が過剰に強く、個人が集団に没入している状況で起こる。軍人の殉死、伝統社会の慣習的自殺など。(3) アノミー的自殺(anomic):社会的規制が弱まり、欲求と達成可能性のあいだの均衡が崩れる状況で起こる。経済的好況・不況の急激な変動期に増えるとされる。(4) 宿命的自殺(fatalistic):社会的規制が過剰で、未来が閉ざされている状況で起こる。奴隷制下の自殺など、デュルケムは脚注的に位置づけた。

文脈と歴史

『自殺論』は、社会的事実としての自殺を地域・宗教・婚姻状態・経済状況などとの関係で実証的に分析した古典です。19世紀末のヨーロッパ各国の統計資料を駆使し、自殺率という集合的指標に固有の規則性があることを示しました。

社会学方法論的な意義は極めて大きく、もっとも個人的に見える行為(自殺)が、社会的条件と結びついた集合的事実として捉えられることを示した点で、社会学を独立した学問として確立する作業の一環をなしています。

主要な論点

1. 統計データの限界

デュルケムが用いた当時の自殺統計には、分類・報告のばらつきといった限界があります。現代の研究は、デュルケムの結論をそのまま受け継ぐのではなく、彼の方法論的姿勢──個人心理に還元せず社会的条件のなかで自殺を捉える視点──を継承する形で議論を進めています。

2. 自己本位的自殺と現代社会

個人化が進む現代社会では、社会的統合の弱さに伴う孤立・孤独の問題が改めて注目されています。自己本位的自殺の概念は、現代の単身世帯の増加、地域・職場のつながりの希薄化と関連して再検討されています。

3. アノミー的自殺と社会変動

アノミー的自殺は、急激な社会変動のなかで規範が動揺するとき増加する、というのがデュルケムの主張でした。グローバル化、デジタル化、雇用の不安定化といった現代の社会変動の文脈でも、アノミー概念の現代的な意義が議論されています。

TSIRの研究との関わり

TSIRのインタビュー研究は、自殺を直接の主題とするものではありませんが、デュルケムの方法論的姿勢──個人の選択や苦しみを、心理に閉じず社会的条件のなかで捉える──から多くの示唆を受けています。

子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトで現れる孤立規範の動揺のテーマは、自殺の3類型のうち自己本位的・アノミー的な議論と概念的に重なります。個別の語りと社会的条件を接続する枠組みのひとつとして、デュルケムの古典的な議論はTSIRの分析の参照点となっています。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

質的研究法・インタビュー研究について、講演・執筆・取材のご依頼を承っています。

お問い合わせCONTACT