用語分類:社会理論 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
現象学的社会学(phenomenological sociology)は、日常生活において人々がいかに意味を構成し、共有された世界を成立させているかを出発点として社会を理解しようとする社会学の流派です。アルフレッド・シュッツが基礎を築き、バーガー & ルックマン、エスノメソドロジーなどに継承されました。

ひとことで言うと

「人は日々の暮らしのなかで、目の前の世界をどう意味づけ、当たり前のものとして共有しているか」を出発点に社会を考える社会学のスタイルです。

定義

現象学的社会学は、エトムント・フッサールの現象学を社会科学に応用したもので、アルフレッド・シュッツによって体系化されました。シュッツは、日常生活世界(lifeworld)における意味構成、相互主観性(intersubjectivity)、類型化(typification)、当然視(taken-for-grantedness)といった概念を中心に、社会的行為と社会秩序のミクロな基盤を分析しました。

ピーター・バーガー & トーマス・ルックマンの『現実の社会的構成』(1966)は、シュッツの議論を社会理論として広く展開し、社会的構築主義の古典的著作となりました。ハロルド・ガーフィンケルのエスノメソドロジーも、現象学的社会学の影響を受けつつ、日常的な相互行為のなかで秩序が達成されるプロセスを精緻に分析する方向に発展しました。

文脈と歴史

現象学的社会学は、20世紀前半のオーストリア出身の哲学者・社会学者シュッツによって開始され、第二次大戦後のアメリカで本格的に展開されました。当時主流だった構造機能主義(パーソンズ)に対する補完・対抗として、人々の日常的経験と意味世界を社会学の中心に据え直す試みでした。

日本では1970年代以降、シュッツやバーガー & ルックマンの著作の翻訳・紹介を通じて広まりました。質的研究の方法論、ナラティブ・アプローチ、エスノメソドロジー、社会構築主義の議論に深い影響を与え続けています。

主要な論点

1. 日常生活世界と「自然的態度」

シュッツは、日常生活世界が人々によって「自然的態度」のもとに当たり前のものとして経験されていると指摘しました。社会学者の仕事は、この自然的態度を一旦保留(エポケー)し、「何が当たり前として共有されているか」を分析することです。

2. 類型化と相互主観性

私たちは他者を「上司」「店員」「親」といった類型を介して理解し、相互行為を進めています。この類型は社会的に共有されており、類型を介した予期と応答の積み重ねが社会秩序を生み出していると、現象学的社会学は捉えます。

3. 社会構築主義への展開

バーガー & ルックマンの『現実の社会的構成』は、現象学的社会学を起点として、知識・現実・自己が社会的に構築されることを論じる社会構築主義の古典として位置づけられています。この系譜は、ジェンダー研究、ナラティブ・アプローチ、知識社会学などに広く影響を与え続けています。

TSIRの研究との関わり

TSIRのインタビュー研究は、現象学的社会学の構えと深く親和的です。対象者が出産・子育て・創作・障害といった経験をどのように意味づけ、当たり前と感じ、語っているかを聞き取ることは、現象学的社会学の関心そのものに重なります。

また、「自然的態度」のなかに埋め込まれている暗黙の前提──「結婚すれば子どもをもつのが普通」「働いていれば創作できないのが普通」「発達障害は特別なケース」など──を語りのなかから取り出し、再検討することは、TSIRの社会学的分析の重要な作業です。

関連する用語

参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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