ひとことで言うと
「社会の決まりごとや価値観が揺らいで、人々が何を目指せばいいのか分からなくなった状態」のことです。
定義
アノミー(anomie)の語は、ギリシャ語の a-nomos(無法状態)に由来します。デュルケムにおいて、それは単なる無秩序ではなく、急激な社会変動のなかで、人々の欲望と社会的規範のあいだの均衡が崩れた状態を指します。
デュルケムは『自殺論』でアノミー的自殺を、社会の規範が弱体化した状況に置かれた個人が陥る自殺類型として提示しました。経済危機・突発的な富裕化・離婚といった急激な社会変化が、人々の欲望を抑制する枠組みを揺るがし、満たされない欲望と不安定さのなかで自殺リスクが高まると論じました。
文脈と歴史
19世紀末のフランスは、産業化と都市化の急速な進展により、伝統的な共同体規範が崩れ、新たな社会秩序が模索されていた時代でした。デュルケムは、この社会変動のなかで現れる「規範の空白」を捉える概念としてアノミーを位置づけました。
20世紀半ばには、ロバート・K・マートンが『社会理論と社会構造』(1949)でアノミー論を再定式化しました。マートンは、社会が掲げる文化的目標(成功・富)と、それを達成する制度的手段の不均衡に注目し、目標と手段のずれが逸脱行動を生み出すメカニズムを論じました。これは現代の犯罪社会学・逸脱論の古典的枠組みです。
主要な論点
1. デュルケムとマートンの違い
デュルケムのアノミーが規範の崩壊に注目するのに対し、マートンのアノミーは目標と手段のずれに注目します。前者はマクロな社会病理として、後者は集団・個人の逸脱メカニズムとして展開されます。
2. 現代社会への応用
高度経済成長期の終焉、グローバル化、新自由主義、格差拡大などが、現代版の規範の不安定化を生み出していると論じられてきました。アノミーは、現代社会の生きづらさや孤立を捉える概念としてもしばしば援用されます。
3. 批判と限界
アノミー論には、何が「規範的」で何が「アノミー的」かを判断する基準そのものがしばしば不明確だという批判があります。文化相対主義の立場からは、特定の社会観を前提にした評価ではないかとの指摘もなされてきました。
TSIRの研究との関わり
現代日本の家族・労働・人生設計をめぐる選択は、戦後の「標準的ライフコース」が揺らいだなかで行われています。「子どもを持つ理由・持たない理由」では、結婚・出産をめぐる規範の揺らぎのなかで、語り手たちが何を頼りに判断を下しているのかを聴くことが、アノミー的状況のなかでの選択行動を理解する手がかりになります。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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