はじめに
「昭和の人」と「令和の若者」では、感じ方も振る舞いも、ずいぶん違って見えます。 「日本人」と「アメリカ人」も、しばしば違うパーソナリティを持っているように感じます。
このような「ある時代の、ある社会、ある集団に属する人々に、なぜか共通して見られる性格上の特徴」を、社会学・社会心理学のことばで社会的性格(social character)と呼びます。
20世紀の社会理論のなかで、極めて影響力のあった概念です。
1. 社会的性格とは何か
社会的性格は、ひとことでいえば、
同一の集団や社会層に属する人々が、ほぼ共通に示す性格上の中心的諸特徴。
を指します(吉岡のノートより)。
エーリッヒ・フロム(Erich Fromm)は、こう定義しました。
ある一つの集団の大多数の成員がもっている性格的構造の本質的な中核であり、その集団に共通する基本的経験と生活様式の結果、発達したもの。
民族的性格、階級的性格、男性的性格、職業的性格──など、社会的性格にはさまざまな種類があります。
2. なぜこの概念が必要か
社会的性格の議論は、社会学と心理学のあいだの橋渡しの役割を果たします。
- 社会の経済的土台(下部構造)
- 文化・思想(イデオロギー)
──このふたつを結びつける媒介として、人々のパーソナリティを位置づける。 個人の心理に閉じない、また社会の構造だけにも還元しない、その中間にある社会的に共有されたパーソナリティを扱うための概念です。
社会的性格は、その集団に共通する最頻的パーソナリティを捉えることによって、その集団や社会の特質を解明できる、と考えられました。
3. フロムとアドルノ──ファシズムの社会心理
社会的性格の概念は、20世紀のヨーロッパで、極めて切実な問いから生まれました。
エーリッヒ・フロムとテオドール・W・アドルノ(Theodor W. Adorno)は、この概念を用いて、ファシズムの社会心理的基盤を分析しました。
なぜドイツで、ナチズムがあれほど広く支持されたのか? 彼らの答えは、
第一次世界大戦後のドイツの下層中産階級の社会的性格(権威主義的性格)が、ナチズムの受容と支持に大きな役割を果たした。
というものでした。 経済的不安と社会的地位の低下のなかで、強い権威にすがり、異質な他者を攻撃する権威主義的パーソナリティが、社会的性格として広がっていた──。 これが、ナチズム支持の土台になった、と彼らは論じました。
アドルノの『権威主義的パーソナリティ』(1950)は、現代でもポピュリズムや極右政治を分析する際に、参照され続けています。
4. リースマンの社会的性格3類型
社会的性格論で、もうひとり決定的に重要なのが、アメリカの社会学者デイヴィッド・リースマン(David Riesman)です。 彼は、1950年の名著『孤独な群衆』(The Lonely Crowd)で、社会的性格を3つの類型に整理しました。
ひとつ目は、伝統指向型(tradition-directed)。 伝統社会において支配的だった性格。 慣習・しきたり・先祖代々のルールに従って行動する。 個人の選択の余地は少ない。
ふたつ目は、内部指向型(inner-directed)。 近代市民社会の発展のなかで広がった性格。 両親や教師から内面化した価値観・原理に従って行動する。 内なる「ジャイロスコープ(羅針盤)」に導かれる。
三つ目は、他人指向型(other-directed)。 資本主義の高度化、大衆社会化のなかで広がった性格。 他人がどう見るかを絶えず気にしながら行動する。 外なる「レーダー」に従って、周囲の評価を読み取る。
リースマンは、西欧人(主として上層中産階級)の社会的性格が、
伝統指向型 → 内部指向型 → 他人指向型
へと変化していくと論じました。 1950年代のアメリカ社会で、すでに「他人指向型」が支配的になりつつあった──というのが、彼の診断でした。
5. SNS時代の「他人指向型」
リースマンの「他人指向型」の議論は、SNS時代にいっそう切実になっています。
- 「いいね」の数を気にして投稿する
- 他人の生活と自分を比べてしまう
- 周囲の評価が、自分の自尊心の根拠になる
- フォロワー数、再生回数、エンゲージメント率に振り回される
これらは、まさにリースマンが70年以上前に描いた「他人指向型」のパーソナリティの、現代的な姿です。 SNSは、他人指向型の社会的性格を極大化するインフラかもしれません。
6. 日本の社会的性格論
日本の近代化と大衆化は、急激に重なりながら進行しました。 だから、リースマンの3類型をそのまま当てはめるのは難しい部分があります。
日本の社会学者日高六郎は、日本の社会的性格を、次の5つに区別しました。
- 庶民的性格
- 臣民的性格
- 市民的性格
- 大衆的性格
- 人民的性格
これは、日本の近代化過程の複雑さを、社会的性格の多重性として捉えようとした試みです。
7. 社会的性格論の代表的研究
20世紀の社会的性格論には、いくつもの代表的研究があります。
- R・リントン:「地位と役割のパーソナリティ」
- エーリッヒ・フロム:「社会的性格」
- A・カーディナー:「基本的パーソナリティ構造」
- デイヴィッド・リースマン:「社会的性格の3類型」
- T・W・アドルノ:「権威主義的パーソナリティ」「民主的パーソナリティ」
これらは、いずれも「社会と個人の心理のあいだ」を、何らかの形で結びつけようとする試みでした。
8. インタビュー研究と、社会的性格
TSIR がインタビューを通して聴く語りのなかにも、社会的性格の手応えは、しばしば登場します。
- 「うちの世代は、こういう考え方をする人が多い」
- 「自分は、親の世代とは違うやり方を選んできた」
- 「会社の文化のなかで、いつの間にか自分の振る舞いも変わった」
- 「他人の目を気にする自分が、嫌になることがある」
これらの語りは、個人の性格が、社会的な文脈のなかで形作られていることを教えてくれます。 社会的性格の補助線を持っていると、こうした経験を、たんなる「性格の問題」ではなく、社会と個人の交差点として読みほぐすことができます。
特に、TSIR のライフヒストリー研究は、ひとりの語りのなかに世代の社会的性格が現れる瞬間を、丁寧に拾い上げる作業でもあります。
結び
社会的性格は、20世紀の社会理論が産んだ、最も重要な概念のひとつです。
「性格は、生まれつきのもの」と考えがちですが、社会的性格論は、
- 性格は、社会・文化・経済の土台のうえに形作られる
- 時代によって、社会的性格は変わっていく
- 個人の心理は、社会のあり方を映している
──という、ラディカルな視点を提供します。
自分の「性格」が、どんな社会・どんな時代の産物かを意識する。 そして、いまの時代がどんな社会的性格を生み出しているかを観察する。 これは、自分と社会の両方を、新しい目で見るための作法です。
参考資料
- デイヴィッド・リースマン『孤独な群衆』(1950)
- エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(1941)
- T・W・アドルノ『権威主義的パーソナリティ』(1950)
- 日高六郎の社会的性格論
- 吉岡詩織の社会学用語ノート「社会的性格」
- 関連:再魔術化(#52)、大衆と公衆(#33)、ポストトゥルース(#120)
【執筆:吉岡詩織 / 編集:qbc(栗林康弘)】