ひとことで言うと
「その人がどう人生を語るか」そのものを研究の中心におく方法です。出来事の正確さよりも、語ることを通じて何が立ち上がるかに焦点を当てます。
定義
ライフ・ストーリー法は、語り手と聞き手の対話のなかで生成される人生の語りを、その語り方・語りの構造・語ることの意味において分析する質的研究の方法です。
ライフ・ヒストリー法が他の資料と組み合わせた「生活史の再構築」を志向するのに対して、ライフ・ストーリー法は語りそのものを固有の研究対象として扱います。語りは過去の事実をそのまま再生するものではなく、聞き手と共同で意味を構成する現在進行形の行為として理解されます。
文脈と歴史
ライフ・ストーリー研究は、1980年代以降の言語論的転回と社会構築主義の影響を強く受けて展開してきました。語りを真偽の枠組みで評価するのではなく、語ることによって何が成立しているかを問う立場です。日本では桜井厚らによって、対話的構築主義の立場からライフ・ストーリー研究の方法論が体系化されてきました。
ライフ・ヒストリー法とは、研究対象の捉え方や分析手続きにおいて重なる部分が大きい一方、語りの位置づけが異なります。両者は対立する方法というより、研究の問いに応じて使い分けられる姉妹的なアプローチとして理解できます。
主要な論点
1. 真実と物語のあいだ
「語られた人生」が「実際の人生」と一致しない場合、研究としてどう扱うか。ライフ・ストーリー法の立場からは、語りの事実性そのものよりも、語ることで何が達成されているかが分析の焦点になります。語りのなかでの過去の編成、矛盾、空白、強調といった要素が分析対象になります。
2. 語り手と聞き手の共同性
ライフ・ストーリーは、語り手だけでなく聞き手の質問・反応・表情・沈黙によっても形作られます。インタビュアーは「中立的な観察者」ではなく共同制作者であるという認識が、現代のライフ・ストーリー研究の前提になっています。
3. 自己物語と社会のあいだ
個人の語りには、その人が生きる社会の文化的レパートリー(家族物語、ジェンダー物語、成功物語など)が浸透しています。ライフ・ストーリー法は、個人の語りを通じて、そこに流れ込んでいる社会的な物語の網の目をも読み解こうとします。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー研究は、ライフ・ヒストリー法とライフ・ストーリー法のあいだを行き来する性格を持っています。「仕事・育児をしながら創作をする理由」プロジェクトでは、語り手が自身の創作を振り返り意味づけ直す語りそのものの動きに注目しており、ライフ・ストーリー法的な関心を強く持って設計されています。
また、語りが対話のなかで生成されるという前提のもと、インタビュアー自身の問いかけ・反応がどのように語りを形作っているかについても、リフレクシビティを伴った検討を行っています。
関連する用語
参考文献・参考資料
- 桜井厚『ライフストーリー・インタビュー──質的研究入門』(せりか書房, 2002)
- 桜井厚・小林多寿子編『ライフストーリー・インタビュー──質的研究入門』(せりか書房, 2005)
- やまだようこ編『質的心理学の方法──語りをきく』(新曜社, 2007)
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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