用語分類:質的調査方法 監修:吉岡詩織 最終更新:2026-05-09
人々が日常生活のなかで「あたりまえの秩序」をつくり出している方法そのものを研究する社会学のアプローチです。人々の実践に内在するルールや手続きを、外から仮説で説明するのではなく、実際のやりとりを丹念に観察することから明らかにしようとします。会話分析やワークプレイス研究の基盤にもなっています。

ひとことで言うと

「人はなぜそう振る舞うのか」を理論で説明するのではなく、「人々がふだんどのようにして社会を秩序立てているのか」をそのまま観察・記述しようとする立場です。当事者が用いている方法そのものを、研究の対象に据えます。

定義

エスノメソドロジーは、人々(ethno)が日常的状況のなかで社会的秩序を達成するために用いている方法(method)を研究する学問領域です。20世紀後半にハロルド・ガーフィンケルの仕事を中心に展開し、社会学の伝統的な「上から」の説明様式とは異なる視点をもたらしました。

ここで言う方法とは、特定の理論モデルではなく、人々が実際の場面で互いの行為を理解可能にし、状況を進めていくための、ふだん意識されないノウハウやルーティンを指します。

文脈と歴史

20世紀半ば以降、社会学は社会構造や規範体系を上位に置き、個々の行為をその下に位置づけて説明する傾向を強めていました。エスノメソドロジーは、こうした構造主義的な説明方式そのものに方法論的な問いを投げかけ、人々の実践に立ち戻ろうとする動きとして登場しました。

その後、会話分析、ワークプレイス研究、テクノロジーの利用研究など、さまざまな領域に応用されていきました。日常的な会話や、職場での協働、医療・教育の現場など、具体的な場での秩序形成を分析するための強力な視点を提供しています。

主要な論点

1. 説明することと、説明されてしまうこと

人々の実践は、その都度「なぜそうしたのか」を問われれば、当人によって何らかのかたちで説明可能になります。エスノメソドロジーは、この「説明可能であること(accountability)」自体を社会的秩序の核に据え、行為と説明の絡み合いを観察対象にします。

2. 構造ではなく実践へ

「制度」「階級」「ジェンダー」といった大きなカテゴリーを前提に置くのではなく、それらが具体的な場でどのように呼び出され、参照され、効果を持つのかを問います。構造はあらかじめ存在するものではなく、人々の実践のなかで再生産されるものとして扱われます。

3. 違背実験

日常のルーティンをわざと逸脱してみると、それまで見えなかった「あたりまえ」の構造が浮かび上がる、という発想がエスノメソドロジー初期に提示されました。秩序がどれほど精緻にできているかを観察するための、思考実験として今も参照されます。

4. 社会学への含意

エスノメソドロジーは、社会学が「外から社会を説明する」ことに偏ることへの注意喚起でもあります。説明する研究者自身が、当事者と同じく社会の方法を使っていることを忘れない、という反省的な姿勢を求めます。

TSIRの研究との関わり

TSIRがインタビュー研究で重視しているのは、語り手の経験を、外側から構造のラベルで貼り付けてしまうのではなく、その人がどのように出来事を意味づけ、自分の人生に位置づけているかをていねいに辿ることです。エスノメソドロジーが提案する「人々の方法に立ち戻る」という姿勢は、この実践と深く響き合います。

プロジェクト「子どもを持つ理由・持たない理由」では、語り手が自身の選択をどのような枠組みで説明しているかを観察すること自体が、社会のなかにある「あたりまえ」の輪郭を浮かび上がらせる手がかりになります。

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参考文献・参考資料

※ 参考文献は順次追加・整理していきます。

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