ひとことで言うと
「世界を全部説明する大理論」と「目の前の調査仮説」の中間に、もう少し射程のある理論を置こう、という発想です。理論と実証のあいだを埋めるための立場です。
定義
中範囲の理論は、限定された範囲の社会現象を説明する一連の命題群であり、経験的研究と密接に結びつき、検証や修正が可能な水準で展開される理論を指します。社会の全体構造を一気に説明しようとする「大理論」と、個別の調査仮説の中間水準に位置づけられます。
文脈と歴史
20世紀半ばのアメリカ社会学において、抽象的な体系構築と純粋な経験的記述という両極化に対するマートンの応答として提示されました。準拠集団、逸脱、機能分析など、マートン自身の研究はいずれも中範囲の理論として組み立てられています。
主要な論点
1. 理論と実証の架橋
中範囲の理論は、実証研究の積み重ねが理論の発展に結びつく道筋を確保するための枠組みです。経験研究を理論の素材として位置づけ直す作業を伴います。
2. 射程の限定
すべてを説明しようとしないことが、かえって分析力を高めます。説明したい現象の範囲を明示することは、理論の使い勝手にも直結します。
3. 累積性
中範囲の理論は、個別研究の知見を一定領域内で積み上げ、一般性を持たせるための装置でもあります。理論の改訂可能性を前提とする点で、開かれた性格を持ちます。
4. 批判と継承
大理論を必要としない素朴な実証主義に陥るのではないか、という批判もあります。一方で、グラウンデッド・セオリー・アプローチなど、現代の研究戦略にも継承されています。
TSIRの研究との関わり
TSIRのインタビュー研究は、社会全体を説明する大理論を打ち立てることを目的にはしていません。むしろ「子どもを持つ/持たない選択」「育児と創作の両立」など、限定された領域の現象を、語りを手がかりに丁寧に記述・整理する作業を続けています。これは中範囲の理論の発想と相性のよい姿勢です。
関連する用語
参考文献・参考資料
※ 参考文献は順次追加・整理していきます。
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