インタビューの要約
- インタビュイーは大工として働くようさん。平日は現場、週末に自宅という生活
- 母子家庭で育ち、子ども時代に複数の困難な経験を重ねてきた
- 長く「自分の人生」に否定的だった時期を経て、ここ数年で肯定的に捉えなおしてきた
- 子どもは「どちらかというと持ちたい」側。一方で「自分の血を受け継がせるのは、その子にかわいそうかも」という迷いがある
- 「持たない」ことへの後悔は感じない。むしろ「持って失敗するかも」という不安のほうが強い
1. 「持ちたい」と「血を継がせたくない」のあいだ
ようさんの「子どもを持つ理由・持たない理由」をめぐる語りで、私が編集として何度も読み返したのは、このふたつの感情のあいだに居る揺れでした。
どっちかというと持ちたい、やな。持ちたい側ではあるかな。
子どもはかわいい、一緒にいる日々は刺激的で、楽しそう。──そう語りつつ、別の場面ではこう言葉が出てきます。
自分の血を受け継がせるっていうのは、その子どもにかわいそうなんじゃないかな
「持ちたい」の理由は、子どもへの愛着や、楽しさへの期待など、いわば前向きな感情。
「持たないほうがいいかも」の理由は、自分を否定的に見ていた長い時間と、その記憶を子どもに引き継がせたくない、というためらい。
この二つのあいだで、ようさんは揺れている。「持たない」を選ぶことへの後悔は、考えても出てこない、と語っていました。
2. 育ってきた経験のこと
ようさんは母子家庭で育ったことを、序盤で話してくれました。お父様とは保育園の入る前後で離れることになり、それ以降は実質的に会っていないそうです。
幼少期から思春期にかけて、ようさんはご家族のこと、学校でのいじめのこと、その後の引きこもりのことなど、いくつもの困難を抱えながら過ごしてきました。
詳細は note のほうでご本人の言葉でお読みいただきたいのですが、編集の私から書かせていただくと、「自分の人生にずっと否定的だった」期間が、ようさんの語りの根に長く流れている、ということです。
社会学では、こうした子ども時代の経験が大人になってからの選択や自己評価に影響していくことを ライフコース や 世代間連鎖 という言葉で扱います。
ようさんの語りに私が見たのは、その連鎖を「自分の代で止めたい」という気持ちと、それでも「持ちたい」というもう一方の気持ちの、せめぎ合いでした。
3. 否定から肯定へ、ゆっくり打ち解けていった
注目したいのは、ここ3〜4年で、自分への見方が変わってきた、と語っていたことです。
自分の中にある、何て言うんだろうな、なんか自分自身を否定的に見てる自分を、もう向き合うっていうか心の中で向き合うっていうか。
自分の中で瞑想に近いんですけど、なんか徐々に、もう1人自分って言ったらいいかな。打ち解けていったっていうか。
大きなカルチャーショックがあったわけではない、と。
自分の中の、自分を否定している自分と、ゆっくり打ち解けていった、という言い方が、印象に残りました。
無名人インタビューでも社会学でも、こういう自己物語の書き換えのプロセスは、いろいろな名前で呼ばれてきました。過去の出来事は変えられないけれど、それをどう語り直すかは、人生の途中で何度でも変えていける。
ようさんの語りは、その現在進行形のプロセスを、聞き手に見せてくれているように、私は読みました。
4. 「いつも、ちょっと浮いている」
もう一つ、ようさんの語りに繰り返し出てくる感覚があります。
自分だけなんか違う感覚があるんですよね。一緒に同じことしたりとか遊んでても、他の楽しい瞬間あるんですけど、でもなんか自分だけ違うような感じがするんですよ。
ちょっと微妙な孤独感みたいのがずっとあるんですよね常に。
子どもの頃から、大人になってからも、ようさんはこの「ぼんやりとした孤独感」を持ち続けている、と語っていました。
無名人インタビューを6年やってきて、この感覚を語る方は実はとても多いです。集団のなかにいるのに、なぜか一人だけ違う温度で時間を過ごしている、という感覚。
ようさんはこの感覚について、最後にこんな受けとめ方を見せてくれました。「社会とか周りは多分そんな変わってなくて、自分がただただ変わっていっただけかな」と。
世界が変わったのではなく、自分が変わってきた、という捉え返し。これも、自分の物語を書き直しているようさんの、もうひとつの姿だと思います。
5. 編集として、最後に
ようさんの語りは、終始穏やかで、時々ふっと笑いも混じる、リラックスした口調です。
でも、語られている内容は、決して軽くない。家庭、暴力、いじめ、引きこもり、自己否定──そして、それらを過ぎ越して今にたどり着いている、という証言です。
最後に、運営サイドへのメッセージを聞かれて、ようさんはこう言っていました。
いろいろ皆さんいろいろ大変なことあると思いますけど、しんどいことあると思うんですけど、捉え方ちょっと一つ変えたら、本当小さいことでも面白く見えたり幸せに思えたりするから、楽しんでいきましょうっていう感じ。
ご自身が、長い時間をかけて掴んできた「捉え方を変える」という方法を、ここでも誰かに渡そうとしている。
そういうあたたかさが、ようさんの語りには通底していました。
ようさん、お話を聴かせてくださって、ありがとうございました。
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このコラムについて
ようさんへのインタビュー(2026年4月7日公開/聞き手:吉岡詩織)を、編集・制作を担当した私(栗林/qbc)が読み返して書いたコラムです。「無名人インタビュー」を6年やってきた人間として、編集の側で読んで何が残ったかを書きました。
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【編集・制作:qbc / 無名人インタビュー】