インタビューの要約
- このインタビューは私(qbc/栗林康弘)が聞き手・吉岡詩織に話を聴いてもらったもの。47歳、無名人インタビュー主宰、TSIR共同運営
- 「結婚しなさい、子どもを産みなさい」という空気が育った家庭にあまりなかった、という話から始まる
- 40代半ばで初めて事実婚パートナーの子どもとの暮らしを経験。「子どもを持つのもありかも」と考えが変わった
- 「子どもを持ちたいというのは、本能ではなく社会的欲求のほう」と現時点では考えている
- この記事は、私自身の語りを編集者の私が後日読み返した、という珍しい構造のコラム
1. 「自分の語りを、自分で読み返す」という変な体験
このシリーズは、TSIRの「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトで公開されたインタビューを、媒体側の編集・制作を担当した私が読み返して書く、という設計です。
今回は、聞かれた本人(私)が、自分のインタビューを、編集者の私として読み返す、という入れ子構造になっています。
正直に言うと、これは妙な体験でした。
インタビュー中は、聞き手の吉岡さんの問いに沿って、自分の口から出てくるままに話している。
後日、編集として文字起こしを読み返すと、「自分のことなのに、他人の語りを読むように見える」瞬間が何度もあって。これがインタビュー研究で時々起きる、自分自身の語りを対象化する現象だ、と気付きました。
2. 「結婚しなさい、子どもを産みなさい」がなかった家
インタビューの冒頭で私は、自分の家庭にそういう空気がなかった、と語っています。
積極的に「子どもを持ちなさい、家族を作りなさい」みたいなことは言われてこなかったな、と思いますね。色んな人の話を聞く中でも、自分はあまり言われてこなかったんだろうなって。
父親、自己破産、お墓の話、両親の別居──。読み返すと、決して標準的とは言えない家族の経緯が、淡々と並んでいます。
「自分になぜ結婚願望がないんだろうと思った時に、そこを根拠に説明できるのかなと思ったり」と、自分でも生育環境を遠目に観察するような語り方をしている。
社会学が 家族のなかの社会化と呼ぶ現象を、自分の人生に当てはめて見ている、という構造です。
3. 「子育ての面白さ」が芽生えたとき
20代30代はずっと結婚しようと思わなかった、と語る私が、変わったきっかけは、事実婚パートナーの子どもとの暮らしでした。
四歳ぐらいの時はわからなかったんですけど、小学生ぐらいになると、もう明らかに父親と似てるってのがわかってくるんですよね。 (中略) 血の濃さというのはものすごい力を持っているんだなということを間近で感じました。
子どもの父親(パートナーの元夫)と、目の前の子どもが、姿勢や歩き方や表情で連続している──。
これは抽象的な「血のつながり」の話ではなくて、毎日の生活のなかで「あ、この子は父親と似てきてる」と気付く、具体的な観察の積み重ねでした。
これがあって、「自分も子どもを持つのもありかもしれない」と思うようになった。
40代半ばで起きた、私自身のナラティヴの書き換えです。
4. 「子どもを持ちたいのは、本能ではなく社会的欲求」
このインタビューで自分が語ったことのなかで、編集として読み返して一番ハッとしたのが、ここです。
本能として産みたいとか、性的衝動があるから自然に生まれるというのは、実はないのじゃないかなと思って。性的欲求は自然なことだと思いますけど、子どもを持ちたい欲求というのは不自然な感覚なのかなって。 (中略) 子どもを持ちたいというのは、だから、社会的欲求の方が強いと今は思ってます。
この発言は、家族社会学が長く扱ってきた問いとも重なります。
「子どもを持ちたい」という気持ちは、生物学的な本能なのか、それとも社会的・文化的に作られた欲望なのか。
インタビューシリーズに関わってから、後者のほうが濃いと感じるようになった、と私は語っています。
これは、TSIRのインタビュー研究が、聞き手だけでなく語り手にも気づきを与える場であることの、ひとつの記録です。
5. 「壁と卵」のスタンス
インタビューの最後、私はこんなことを言いました。
村上春樹の「壁と卵」というスピーチがあって。壁はシステムや国家で、卵は一人の人。村上春樹は「何が何でも人の側に立つ」と言っていて。インタビューもそれと同じで、その人が犯罪者だろうが間違っていようがどうでもよくて、その人の考えていること、現実離れしていても、そのままその人としてあるべき、というのがスタンスです。
これは、無名人インタビューを6年やってきた自分が掴んでいる、いちばん大事な構えです。
シャロ坊さんの強い世界観も、ようさんの揺れも、メケさんの軽妙さも、松江さんの率直さも、田中さんの慎重さも、向山さんの強い肯定も──。
どの語りも、それぞれそのままで「卵の側」にあって、私はそこに立つ、と。
これがTSIRの「子どもを持つ理由・持たない理由」プロジェクトを、編集の側で支えていく私の立ち位置でもあります。
6. 編集として、最後に
自分の語りを自分で読み返すというのは、ちょっと気恥ずかしい作業でした。
でも、聞かれて答えてからの数か月で、自分の中で言葉がもう少し動いていることにも気付きました。それは、聞かれて答えた時点では分かっていなかった、自分自身についての発見でもあります。
聞き手・吉岡さん、この場をありがとうございました。
引き続き、このプロジェクトを、媒体の側からしっかりお支えしていきます。
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このコラムについて
qbc(栗林康弘)へのインタビュー(2026年3月12日公開/聞き手:吉岡詩織)を、編集・制作を担当した私(qbc)が、自分自身で読み返して書いたコラムです。インタビュイーであり編集者でもある立場での、メタ視点のコラムになっています。
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家族のなかの社会化/ナラティヴ・アイデンティティ/ライフヒストリー法/壁と卵
【編集・制作:qbc / 無名人インタビュー】