この記事は、インタビューの要約版です。

「在野研究者インタビュー」は、大学の外で研究を続けている人に、テーマの手前にある部分を聞いていく連載です。第2回は、シェアハウスにおけるケアを研究している大学院生、エリザベスさんにお話をうかがいました。来年からは働きながら研究を続ける予定で、ご本人は「私はまだ在野研究者ではない」と話しています。

基本プロフィール

長崎県のご出身です。国立大学の外国語学部に入学してマイナー言語を専攻していましたが、1年半で人間科学部へ転部しました。学部では社会学を専攻し、在学中にアメリカの大学へ8か月間の交換留学をしています。2025年4月から、同じ大学の大学院修士課程に在籍しています。

修士修了後は、シンクタンクへの就職が決まっています。働きながら修士論文を学会で発表し、投稿論文につなげることを目標にしているそうです。

研究の中身

現在のテーマは、シェアハウスにおけるケアの規範と実践です。

出発点にあるのは、家族のオルタナティブとなる関係を見たい、という関心でした。ただ、親密性という言葉は性愛関係から友情まで幅広いものを含むため、研究の対象として絞りにくい。そこで指導教官の助言を受け、行為として観察できる「ケア」から見る方法を選んでいます。

調査の方法は参与観察です。シェアハウスの食事の場や月一のミーティングに入り、そこで働いている規範を記述していきます。たとえば、相手の部屋のドアが閉まっているときは声をかけない、といった不干渉の規範。あるいは、体調を崩した同居人に薬を買ってくる、ご飯を作り置きして冷蔵庫に入れておく、といった行為。どこからが彼らにとってのケアであり、どこからがケアではないのか。その線引きを記述することが目的だといいます。

学問領域におけるケアの研究は、これまでほとんどが家族を対象としてきました。家族ではない人たちが一緒に暮らす場で、ケアがどのように立ち上がるのか。そこに焦点があります。

学部の卒業論文では、男性アイドルのファンダムを親密性の観点から扱っています(「ファンというつながり方」)。問いのスケールに対して調査の規模が見合わなかったという反省が、現在の研究設計につながっているそうです。

やりくり

学部時代は、転部と留学の準備が重なりました。転部直後の学期は週20コマ、留学準備中の学期は週18コマを履修しています。単位互換がほとんど効かなかったためです。

留学の費用は8か月で220万円ほど。応募時期が遅く、出せる奨学金は所得要件で対象外だったため、祖父母が学費用に遺したお金を使っています。

修士1年は、6月末から12月頭まで就職活動と並行しました。研究に本腰を入れられたのは、就職先が決まった10月後半からです。ご本人は「M1の9月末までは授業と就活にリソースを全振りしていた」と話しています。

人とのつながり

転部の際は、一般教養で知り合った社会学の教員に研究計画書を添削してもらい、指導を希望する教員に事前にアポイントを取って了承を得ています。転部後も、進路の相談は指導教官と、当時大学院にいた先輩に持ちかけていました。内部推薦での大学院進学も、教員からの提案がきっかけだったそうです。

大学院では、ゼミでの報告と教員からの助言を通じて研究テーマを組み替えてきました。「学部では優秀な方として扱われていたが、大学院では全然そんなことはなかった」と振り返っています。

学部生向けのTAも務めており、転部の経歴について学部生から質問を受けることがあるそうです。

動機と続ける理由

社会学を選んだ理由を、ご本人は「発想が性に合っていた」と説明しています。父親との関係が悪く、家族に息苦しさを感じて育ちましたが、その違和感の原因を個人ではなく社会構造に帰する見方に触れたことが、進路の転換点になりました。「父のせいでもなく、私のせいでもなく、母のせいでもなく、社会構造が良くない」という捉え方が、個人的にすっきりしたと語っています。

研究については「手法なんです、多分私にとって」と話しています。家族と親密性というテーマを考えるための手法であり、テーマの方は生育環境上、手放しにくいものだ、と。「当事者研究みたいな感じです」という言葉も出ていました。

ご両親はどちらも新聞記者でした(父親は結婚を機に記者を辞め、いまは別の職種で働いています)。小学校低学年から新聞を読み、高学年からは国際ニュース雑誌を毎週楽しみにしていた家庭で育ったことが、社会を大きな枠組みで捉える習慣につながったのではないか、とご本人は見ています。

これから

まず、修士論文を書き上げること。次に、その内容を学会で発表し、可能であれば切り分けて投稿論文にすること。新聞社ではなくシンクタンクを選んだのは、就職1年目でも研究を続けられる時間を確保するためだそうです。

博士課程に進むかどうかは決めていません。「来年働きながら研究を外に発信してみて、投稿の大変さを味わってみて、それでもやはり今の研究を続けたいと思ったら」大学院に戻る可能性もあるし、仕事の方が楽しいと思う可能性もある、という話し方をしていました。

学生に向けたメッセージとしては「やりたいことは何でもやってみたらいい」。ただしご本人は、その言葉に「結局私自身も臆病なので、めちゃくちゃ下調べをして、いろんな人にアポを取りまくって」という留保をつけています。面白いと思ったことを、自分のリスクマネジメントとして納得できる範囲で続けていく、という進め方です。

インタビュー記事について

エリザベスさんへのインタビュー記事「留学して、院にも行った学生に聞いてみた」(全7回)は、無名人インタビューのnoteで公開予定です。公開され次第、こちらにリンクを掲載します。

こんな人に話を聞きたい

「在野研究者インタビュー」では、お話をうかがえる方を探しています。次のような方に、ぜひご連絡いただきたいと思っています。

肩書きや業績は問いません。論文になっていなくても、いま止まっていてもかまいません。むしろ、どうやって続けているのか、止まっているときに何を考えているのか、そのあたりをうかがえたらと思っています。

心当たりのある方、まわりに思い当たる方がいらっしゃる方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

リンク

無名人インタビュー主宰 栗林康弘/qbc

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