この記事は、インタビューの要約版です。全文はnote(無名人インタビュー)で公開しています。

「在野研究者インタビュー」は、大学の外で研究を続けている人に、テーマの手前にある部分を聞いていく連載です。第1回は、発達障害のある子どもや保護者と関わる仕事に就きながら、二つの研究を並行して続けている、たぶ先生(いわおひろあき)さんにお話をうかがいました。

基本プロフィール

発達障害のある子どもや保護者と関わる仕事に就きながら、二つの研究を並行して続けています。

学部卒業後、一度会社員として就職しましたが、リーマンショックによるリストラを経験。正社員一年目という立場でも雇用は守られないと知り、やりたいことをやろうと考えて大学院へ進みました。25歳のことです。博士課程は修了しましたが、博士論文は提出できていません。

現場との関わりは2010年秋から。大学院進学時に始めた家庭教師のアルバイトで、発達障害の子どものための部門を立ち上げるメンバーに誘われたのがきっかけでした。「発達障害」という言葉を聞いたのも、そのときが初めてだったと言います。

現在は「たぶ先生」として、noteでの発信も行っています。

研究の中身

一つめは、発達障害に関するインタビュー研究です。当事者、支援者、家族への聞き取りを通じて、発達障害のある人やその傾向が強い人と、どうすればお互いに分かりやすく、居心地よく過ごせるのか。そのコミュニケーションのあり方を扱っています。インタビューとして明確に始めたのは今年に入ってからで、半年ほどです。

二つめは、ユルゲン・ハーバーマスの学説研究です。大学院で6年、社会人になってからはブランクを挟みつつ細々と読み継いで、通算15年ほどになります。

きっかけは、大学院受験の準備をしていた時期に、地域の住人として入れた大学図書館で読んだ一本の論文でした。自分にとって大事なことが書かれていると感じた一方、どうも辻褄が合わない。元になった文献を辿るとハーバーマスに行き着き、しかもそれはドイツ語で、日本語訳がない。一人では読めないので大学院で教わるしかない、と受験を決めています。

現在のハーバーマス研究にアウトプットはありません。論文の筋は自分の中で定まっており、それを裏打ちするために先行研究20本を読むことを目標にしています。

やりくり

お金については、ほとんど発生していないと話しています。フィールド調査の出張費や大量の郵送費がかかる研究ではなく、本は学生時代に買い集めたもの、論文の多くは無料でアクセスできるためです。

資料へのアクセスは、Google Scholarで新しいドイツ語文献を探し、AI翻訳にかけて日本語にし、通勤時間に読んでチェックを入れる、という方法です。ただし現在は、翻訳にかける作業のところで止まっており、進捗は停滞気味とのことです。

時間が最大の制約になっています。仕事をして、家のことをやり、子どものことも見る。そのうえでの最後のもう一踏ん張りが、時間的にも体力的にもきかなくなる、という言い方をしています。

人とのつながり

ハーバーマス研究を直接指導していた教員とは、大学院を離れたタイミングで疎遠になっており、現在この分野で指導を受けている相手はいません。

一方、発達障害のある子どもとのコミュニケーションについては、ある社会学の教員のゼミに、正式な所属ではない形でオンライン参加しています。他の参加者の研究発表を聞き、気づいたことがあればコメントする、という関わり方です。外から参加しているゼミ生は他にも複数いるそうです。

また、以前の職場の師にあたる方が月に一度オンラインで開いている事例検討会にも参加しています。

ネットワークについては「割と充実しています」と話す一方、自分が勉強する時間は「圧倒的に足りていない」と述べています。

動機と続ける理由

研究を続ける理由として、二つを挙げています。

一つは、実践のためです。発達障害やその傾向が強い子どもとどう繋がれるかを考えながらの仕事において、関わった人数や年数といった経験値だけに頼るのはよくない、という考えを持っています。経験値だけに頼ると、目の前の子どもとの関わりが実験の要素を強めてしまう。気持ちや言葉を引き出す方法は、どこか他のところから学んでこなければならない。その一環としての研究だ、という位置づけです。

もう一つは、博士論文を書けなかったことです。「やり残した宿題」という言い方をしています。博士号は「足の裏についた米粒」——取っても食えないが、取らないと気になる——と言われることがありますが、自分はずっと気になっている方だ、と。

続けられている理由を問われて出てきたのが、「勉強していないとだめで、怖いんです」という言葉でした。基礎的なことが分かっていない、最新の情報を追えているか自信がない。その状態で子どもや保護者に対応することで、すくえたはずの一言を逃していないか、無神経なことを言っていないか。それが怖い、と話しています。

現場に立ち続けると、感覚が現場の側に傾いていく。その偏りを勉強によって整え直す時間が必要だ、とも述べています。

これから

勉強し、実践し、また勉強する。このサイクルをこれからも回していく、という見通しです。本人はこのサイクルの起点を、中学生の頃、さらに遡れば小学生で将棋を習っていた頃——定石の本を読み、並べ、指し、また読む——にまで辿っています。

研究の良さについては、「仕入れ」と「打ち出し」という言葉で説明しています。他の誰かが言いたいことややったことを吸収するのが勉強=仕入れであり、それを自分の中で混ぜ合わせて「では自分としてはどうするのか」を出していくのが研究=打ち出しである、と。そのアウトプットの道が開かれていることが、研究を続けるうえでの道筋になっている、という捉え方です。

出身大学から毎月届く広報誌に「在野で行こう」というページがあり、それがずっと好きだ、という話も出ました。研究者にはなれなかったけれど、自分なりに勉強し、やってみて、また勉強する形で積み上がっているものはあるのではないか、と話しています。

全文はnoteで公開しています

ここに載せたのは要約です。リストラから大学院へ向かうまでの経緯、ゼミや事例検討会でのつながりのつくり方、そして「勉強していないと、怖いんです」という言葉が出てきた場面まで、やりとりのかたちのまま読めるのはnoteのほうです。

noteで全文を読む ↗

たぶ先生について

発達特性のある子どもたちとのマンツーマン療育・教育に15年携わってきました。仙台で発達障害専門の家庭教師としてスタートし、児童発達支援・放課後等デイサービスの現場、複数施設のマネジメントを経験。noteでは療育に携わる方々へのインタビューやエッセイを発信しています。

保有資格:保育士/中学校・高等学校教員専修免許(社会・公民)/社会福祉士/児童発達支援管理責任者/産業カウンセラー

こんな人に話を聞きたい

「在野研究者インタビュー」では、お話をうかがえる方を探しています。次のような方に、ぜひご連絡いただきたいと思っています。

肩書きや業績は問いません。論文になっていなくても、いま止まっていてもかまいません。むしろ、どうやって続けているのか、止まっているときに何を考えているのか、そのあたりをうかがえたらと思っています。

心当たりのある方、まわりに思い当たる方がいらっしゃる方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

リンク

無名人インタビュー主宰 栗林康弘/qbc

お問い合わせ協賛・サンクスペイ